2018年 01月 17日 ( 1 )

 日本にとってイスラエルは殆ど意識されない遠い国家に見える。一方、中東は石油の供給源であり日本の産業の生命線であるようだ。しかし、今や産業の素はCPUである。中でもインテルのCPUは最も大きな役割をもっている。これを生産しているのがイスラエルであることが知られていない。今やインテルの戦略はPCからAI、自動車産業にシフトしており、その中心をイスラエルに置いている。この本はイスラエル礼賛に満ちており、読むにはうんざりするが、それにしてもイスラエルの発展ぶりには驚かされる。日本がどんどん取り残されていることに、空しさを感じるほどだ。著者米山氏はイスラエルのベンチャーと軍事技術を核とした発展に羨望の念を持ってレポートしているのだが、必ずしもこの国に住みたいとか幸せを感じてはいない。
 イスラエルの発展のきっかけは東西冷戦の終結とソ連の崩壊である。もともと、移民の受け入れに熱心であったが、1882年からロシア・東欧から3.5万人が皮切りに建国以来だが123万人、戦後の移民の300万人の3分の1を超える。彼らはソ連で教育レベルの高いグループでソ連崩壊後、ロシアに見切りをつけて移民してきた。ソ連時代もポグロムといった迫害でユダヤ人は苦難の道を歩んだが、そのつけがきた。イスラエルの特徴はエリート教育と徴兵制にある。諜報機関モサドは有名だが第4次中東戦争の教訓として8200部隊という諜報サイバー部隊と、タルビオットという徴兵者30人を毎年選抜し、理工系技術者集団をエリート教育し、新兵器の開発に当たらせる仕組みを持っている。ドローン、自動運転技術、顔や指紋認証、アイアンドームと呼ばれる近距離ロケット砲防御システム、弾道ミサイル迎撃のアローミサイル開発など世界の軍事技術をリードするに至った。今後、レザー砲、レールガンなどの新技術は彼らが開発すると予測される。
e0195345_18483061.jpg
ハマスのロケットを90%打ち落とすアイアンドーム

また、18歳で徴兵された若者は3年後、平均12カ国を周り世界を体験して45%が大学に進学する。そうした費用は徴兵期間中に貯金ができ、これが学資にもなる。だから彼らの大学入学年齢は23歳以上になり、現役入学生が重んじられる日本とは違う。彼らは高い目的意識をもって大学生になるのである。日本では到底実現できない社会システムである。
 移民の国であることから、ベンチャーに対して果敢な挑戦をする。彼らは3回ぐらいは失敗し、そこから学んで成功体験を得るのである。8200部隊はサイバー情報部隊であり、5000人ぐらいが従事しているが実態は不明である。近年ではシリアの核施設を破壊する情報、また、イランのウラン濃縮プラントを無力化することに成功している。こうした軍事技術関係者がアメリカでは大学教授になったり、車の自動運転、ウーバーのようなタクシーのスマホ利用の相乗りシステムなどを生み出している。
 エリートの育成に対して徴兵制を基盤に、高等教育への仕組みも機能している。幼児教育から大学教育に至る仕組みは我が国の教育制度もそれほど劣っているわけではない。しかし、その内容として、ユダヤ教のトーラ、タルムードといった3000年の古典にもとずく民族の知恵が支えている。日本でも古典文学を学ぶが生活からは切り離される。このことは日本では真似のできない点である。
 イスラエル人、ユダヤ人は議論好きであり既成概念の打破に熱心である。混沌の中、生存をかけてソルーションを見出す力はすごい。しかし一方では自己主張の強さ、自分本位といった批判もあり、イスラエルに住むと緊張感が高く、幸せな国かどうかは移民の事情もあり、出身地との相対的なものであろうか。日本人は規則遵守に価値をおく。移民をあまり活用してこなかった。保守的な官僚がネックだが、社会は平和であり、安定した秩序のなかにある。優秀な人間は官僚、医師、大企業に行き、学者にはなってもベンチャーに行かない。このことが今日の低迷を招いている。常にイノベーションを生むイスラエルと日本の良さを交換するダイバーシティが求められる。著者の願いでもある。

[PR]