堤未果著 日本が売られる 幻冬舎新書

近年、新聞報道が形骸化して、読みごたえのあるルポが少ない。テレビのニュースもバラエティー化し、受け狙いのご意見の横並び。ネットのニュースはどこまで信用してよいのやら。そんな中、日本の抱える目に見えないところで着々と起きている、見たくない諸問題を曝している。著者は「貧困大国アメリカ(岩波新書)」でリーマンショック後のアメリカの姿ー暗部を見せてくれた。安倍政権はアメリカの圧力に屈する政権だ。そのお陰で、いつの間にか日本は農薬大国になってしまった。2008年頃からラウンドアップ(グリコサート)の規制は緩和される一方なのである。世界で一番農薬漬けになっているのは中国でダントツである。だから、日本では中国産のニンニクなどの人気がない。しかし、次は韓国、3番目が日本なのである。安倍政権の生き残りのために国民が犠牲になる構図。
 ご本家のアメリカは8位にすぎず、日本の30%くらいしか使っていない。アメリカではネオニコチノイドの神経作用により2025年までに子どもの半分が自閉症になると警告されている。アメリカはベトナム戦争の枯れ葉剤の悪夢から除草剤の使用に慎重なのである。
この10年のアメリカの変化を堤氏は我々に示してくれる。短期のアメリカ観光ではわかり得ない世界。明日は我が身、日本でも起きている貧困層の拡大などの現実。アメリカはかつては日本にとっては輝ける未来を示していた。ベトナム戦争以降、色褪せたがそれでもアメリカンドリームは存在した。リーマンショック後のアメリカは没落する中間層の姿と1%の勝ち組のgreed、貪欲による分断に直面している。オバマの登場からトランプの時代になり、庶民の生活に視点を当てるとこんな姿が見えてくるという著者の視点は鋭い。

日本が売られるというのは安部政権の5年間の政策の結果でもある。著者のアメリカ観を紹介しよう。見事にスケッチしている。今のアメリカは5年後の日本と考えてよい。10年前、小泉政権はアメリカのレーガノミックスを真似、市場開放、規制緩和、公共投資の縮小を行った。郵政民営化で何がよくなっただろうか。規制緩和で、金融機関は不況、大規模商業規制は撤廃されて巨大なショッピングモールが生まれ、商店街はシャッター通りに、人材派遣業で非正規雇用が増えた。フリーターなど若者の貧困化と少子化は進んでいる。教育界はブラックな勤務で教員は残業にあえぐ。甘い認可で大学は乱立、地方税、介護保険、健康保険の重圧で国民は苦しんでいる。もうこれらの増加は止めなければならない。それなのに、同じ事を続ける安倍政権。アメリカの失敗に学ぶことはせず、言いなり。

 堤未果
民衆が鉄槌を下した「強欲資本主義」 ヒラリー・クリントンの蹉跌
「嫌われ者対決」と呼ばれた二者択一で、「排外主義」への嫌悪感より大きな争点となったのは、超富裕層が政治を金で買い、自分たちだけが儲かれば良いという「金権政治」への怒りだった。そしてまた、過去数十年で「株式会社国家」と化したアメリカで、足下が崩れてゆくことに気づかずに、大衆への影響力を過信していた、企業マスコミの敗北でもあった。

 そもそもこの選挙戦自体、序盤から異色だった事を思い出して欲しい。既存の2大政党の外から来た候補者2人が国民の支持を集め「サンダース・トランプ現象」を生み出した。その背景にあるのは、過去数十年アメリカが推し進めてきた「グローバル資本主義の副作用だ。

 NAFTAなどの自由貿易で生産拠点が海外に移り国内の2次産業が疲弊、かつて中流層や大卒者が得ていた所得は1%層株主の懐に入り、国内に還元される税金の大半がタックスヘイブンへと消えてゆく。彼らは法外な資金力で政治家を買収し、アメリカの政治は金で買える投資商品となった。

 そこで彗星のように現れて「超富裕層だけが儲かる自由貿易条約」に反対し、「政治と業界の癒着を断ち切る」と訴えたオバマ大統領に期待がかけられたが、蓋を開けると彼もまた、巨額の政治献金への見返りに、グローバル企業とウォール街を利する政策をせっせと実行、対テロ戦争を拡大し、NAFTAのステロイド版と呼ばれるTPPを推進する始末だ。

 1%層は潤ったが格差は拡大。フードスタンプ受給者4300万人、労働人口の4割が職につけず、学資ローン債務は1兆ドルを超え、ホームレスシェルターには人があふれ、頼みの綱だったオバマケアも肝心の薬価と保険料が上がり、来年さらに約25%の値上がりが来るという。
政権交代も黒人大統領の「チェンジ」も幻想だったという失望が、投票率低下と2大政党離れを加速させ、1%から選挙献金を受け取らず、金権政治とグローバリズムに反旗を翻すサンダース・トランプ両者への期待になった。

 だが民主党は党大会でサンダースではなくヒラリーを指名。この時点で、本戦の争点となる国民の関心が、党派を超えた「政治とカネ」である事に気づかなかったのは、自らも金権政治に浸かり、民の声に疎くなっていた民主党幹部の最大の誤算だろう。その後党幹部によるサンダース降ろしの工作がバレて委員長が辞任、これが結果的にサンダース支持者のヒラリー離れにつながってゆく。

 女性でベテラン政治家でも、ヒラリーはワシントン支配体制のイメージが強すぎる上に、国務長官時代に巨額の献金を受けたサウジやカタールなどへの武器供与疑惑や、ウォール街からの平均20万ドルという法外な講演料や講演録、CNNとの癒着などがこの間次々にウィキリークスなどから暴露され、まさに国民が不審を抱く「政治とカネ」の象徴を思わせてしまう候補者だった。
目先の金に飛びついた企業メディアの強欲が、結果的に業界との癒着を批判するトランプを利することになったのは皮肉な結果といえるだろう。泡沫候補とあなどっていたトランプを、主要メディアが視聴率欲しさに予備選で映しまくった事が、トランプの知名度を一気に押し上げた。

 ヒラリー対トランプの一騎打ちになった時、慌てた彼らは一斉にトランプを叩いたが、これがさらにヒラリーにとって裏目に出てしまう。トランプ選対がここぞとばかりにソーシャルメディアでヒラリーと企業メディアを批判、腐った既得権益(国民の敵)として描くことで、民の怒りをあおることに利用したからだ。

 選挙終盤でFBI長官がヒラリーのメール問題を再捜査すると公言し、すぐにそれを引っ込めた事も、かえって隠蔽したような印象をふりまいた。金銭が絡むこの疑惑は、新政権になった後も捜査が続けられてゆく。

 既存の二大政党対立でもイデオロギーでもなく、今回の選挙戦はまさに金の流れが全ての中心だった。勝利したのはトランプ個人ではなく、彼が選挙キャンペーンですくいとった有権者の「金権政治」への怒りに、ヒラリーが癒着しすぎたワシントンの「支配体制」が負けたに過ぎない。

 そしてまた、ウィキリークスやFBI内部からの情報が選挙戦を大きく動かしたという事実は、世論は自分たちが動かせるという、企業マスコミの奢りに対する民衆からの鉄拳だ。

 今後必ず来るだろう、1%側からの凄まじい巻き返しにトランプがのまれてしまうかどうかは未知数だ。彼の排外主義は警戒し、厳しく監視してゆかなければならない。だが一度火がついた「トランプ・サンダース現象」の方は、今後も消えることなく、他国に飛び火してゆくだろう。


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by katoujun2549 | 2018-11-14 06:50 | Comments(0)