新しい糖尿病薬ネッシーナ
食事をするとグルカゴンというホルモンが小腸から出て血糖値が上昇する。すると、健常者はインシュリンが分泌され、血糖値を下げる。しかし、高齢になると、また、肥満になるとそうしたインスリンの働きがうまくいかない。このあたり高校生でも知っている。そして、糖尿病の人はこのインスリンの量が不足するので、注射でこれを補給しなければならなかった。また、食事療法や運動で消化することも合わせて行なってきた。ところが、近年、インクレチンという血糖値が高いときだけ分泌されるホルモンがあることが分かった。血糖値が上がると、様々な障害が発生し、特に、血管、特に動脈が硬化してしまう。このインクレチンはGLP1とGIPという二種類のホルモンからなる。GLP1は膵臓のβ細胞にあるGLP1受容体に結合、GIPも同じく、膵臓のβ細胞内にあるGIP受容体に結合する。すると、細胞内のATPがアデニル酸クラーゼという酵素によってcyclicAMPに変換される。これがカルシウムチャンネルを開き、カルシウムイオンを細胞内に入れることによって細胞内インスリンを分泌するインスリン分泌顆粒を刺激し、インスリンを分泌する。また、GLP1は肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを作り出す「グルカゴン」の分泌を抑制する。インクレチンはDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素によって分解されます。そのため、このDPP-4を阻害することができれば、インクレチンの濃度を高めることができます。その結果、糖尿病を治療できるようになります。そして血糖値を一定に保つ働きをするホルモンであるインクレチンを分解する酵素(DPP-4)を阻害するのがネッシーナです。/span>ところが、このインクレチンは血糖値が80mg/dl以下になるとその作用がストップするために従来の薬のように低血糖にならないという利点がある。この薬が、アログリプチンー武田製薬の商標名ネッシーナである。
【基礎研究の展開】上部消化管からの GIP と下部消化管からの GLP-1 がインクレチンであり、もとも と想定されたインスリンの追加分泌のみならず、膵β細胞のアポトーシス抑制や増殖促進を担ってい る。膵β細胞への作用は GIP と GLP-1 で共通であるが、膵外への作用はそれぞれに固有で、GIP は脂 肪細胞の刺激から脂肪蓄積、骨芽細胞の刺激からカルシウム蓄積に関与し、GLP-1 は中枢神経系を刺 激することで食欲抑制、胃を刺激することで胃運動抑制に関与している。GIP 受容体や GLP-1 受容体 はこれら以外の組織でも発現しており、生理作用あるいは高濃度のペプチド投与に伴う薬理作用の解 明が進められており、インクレチン作用を超えた展開となっている。
【臨床への展開】インクレチンの作用を応用した糖尿病の治療薬として、DPP IV 阻害薬、GLP-1 受容 体作動薬、αGI 薬がある。いずれも薬剤も GLP-1 シグナルを活性化するが、GIP シグナルについては 三者三様である。その結果を反映して、食事量に応じたインスリンの追加分泌促進作用、ならびに体 重抑制作用は薬剤によって異なり、GIP と GLP-1 シグナルの総和がインスリン分泌促進作用を、GIP と GLP-1 シグナルの比が体重抑制作用を決定すると考えられる。このような糖代謝に関する作用のみ ならず、GLP-1 の心保護作用なども糖尿病治療で注目されている。従来の糖尿病の治療薬が血糖降下 薬であったのに対して、インクレチン薬は血糖上昇を抑制することで血糖変動を減少させるだけでは なく、糖尿病の成因である膵β細胞の脆弱性や肥満、糖尿病に伴う合併症への効果も期待でき、糖尿 病診療のパラダイムシフトを促している。