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司法試験 残酷物語


 1.猛勉強は報われるのだろうか

 日本で一番の難関国家試験は何と言っても司法試験である。毎日8時間の勉強が何年も続く。東大受験の比ではないが、やはり試験に強い東大生は有利であろう。かつては500人しか受からない超絶難関だったが、小泉改革で制度が変わり、2000人くらいが合格するようになり、今は1500人が目標のようだ。制度が始まった当時は、累積していた司法浪人が一掃されるだろうといわれ、また、ロースクールが全国に作られ、門戸が広がるというので大学法学部は大賑わいだった。ところが、いざ新制度が始まり、司法試験も回を重ねるうちに、問題がいくつか出てきた。法学部として全く実績の無いような大学がロースクールを開いたり、とにかく法学部のある大学はみなロースクールを作るものだから、そこに行けば医師の国家試験のように80%くらいは合格するだろうと思ったのが大間違い。法務省の門戸は狭かった。旧司法試験でも試験に落ちた1000人ぐらいのグループは実際には合格線上だった。それでも、毎年1800人は法曹人の卵が生まれる。今年は1800人〜1500人位にしようと言うが、妥当な所か。問題は数字以外の所にあるのだが。司法試験に合格するには、8千時間は勉強する必要があると言う説がある。個人差はあるが、合格者の話だと、毎日、10時間、数年そうした集中的な勉強はして来た人が多いと言う。1年360日として、二年半はかかる。そんな猛勉強は医学部でもしていない。しかし、これをこなせば大学在学中でも合格した人はこれ迄もいる。実験だとか、実習のようなロスタイムが多い課題は無いので、ひたすらテキストを学び、答案練習をこなすのだから、短時間でこなす事も可能だ。司法の世界は実社会の出来ごとを相手にするので、偏差値の化け物のような試験だけで競争に勝ち抜いたからと言って仕事ができる訳ではない。バランスの取れた判断とか、常識、生活体験も無ければ法律家にはなれない。ところが、実際は、テスト人間の方が、裁判官や検察官にはなりやすいのである。そうしたリスクが今の制度にはあるので、人々は裁判を信用していない。彼らの猛勉強イコール良識のある世の中のリーダーとはならないところが日本の社会的欠陥である。一方、知識の価値を尊重しない事も問題である。人格的にもバランスの取れた司法試験合格者であれば、彼らを社会の宝として活用することこそ結果的には良き社会を構築する道ではないか。知的所有権を認めるかどうかである。

2.就職難

 弁護士になれば高収入と社会的信用が同時に得られる美味しい資格という過去の栄光は今や格差社会に落ちてしまった。弁護士になればまるで修行僧で、わずかな所得で正義の為に奔走する人がいると思えば、15分で何万円も稼いで、年収5000万クラスもいる。だが、毎年2,000人も参入すると流石に大変だ。
 どっこい仕事がそんなに無い。国家公務員の採用枠を増やそうとしないからだ。何も、検事や判事を増やそうというのではない。地方自治体も含めて法律職行政職の枠を増やすだけでいいのにやろうとしない。お陰で高年齢で受かっても職が無い。イソ弁も高嶺の花。何でも法律で争うアメリカとは違い、わが国は示談や和解を尊ぶお国柄。供給する弁護士の数に比例して仕事は増えない。アメリカのように弁護士自らが訴訟案件を作り出し、プロポーザルするという慣習が無い日本では、法的な事務は司法書士や行政書士の稼ぎどころとなっており、弁護士は市場が小さいことを考慮せず、当時のアメリカとの交渉の材料になったことがそもそも、無理な制度設計になってしまった。日本は大陸法の体系で成文法、法治主義でできている。基本が違っており、全ての原則が法体系の中で決まる。それに対して判例中心、裁判で物事を決める英米法の伝統のアメリカとは事情が違うのを無視して制度を政治的に決めたから変なのである。

3.改革は失敗か

 確かに10年以上試験に落ち続け、白髪三千丈の中国の科挙のような悪しき試験制度は改革されただろう。これは良かったが、ロースクールで3年ほど勉強して司法試験に合格という安易な認識は間違っている。昔でも社会人で司法試験に合格する人はいたが、ほんの数パーセントであったはず。実はこれは今でも同じではないだろうか。小泉改革では、法学部卒業者以外にも門戸を広げようということで、ロースクールには法学部卒業以外の入学者もいる。しかし、彼らは脱落者が多く、実態は未修者とはいえ法学部出身者がほとんどだそうだ。試験勉強をしていたかどうかだけである。3000人供給しようということであった。これはアメリカの法律業者参入をもくろんだが、挑発した本人は自分のミスを恐れて黙り込んでいる。ロースクールは結構だが、ところが彼らはみな卒業できているとは限らず、落第や中退者も多い。受験者のうち法学部卒以外の合格者は1割くらいだったとおもうが実態は、そこに至るまでに多く脱落している。旧司法試験のときと率としては変わらないのではないか。だからこれは制度改革の失敗。人生かけて勉強してもワリを食う。また、ロースクール卒業者は今は5回まで受けられるようになったが、今年までは三振アウトの制度。22歳で法学部を卒業し、ローに二年、3回受けて落ちればもう27歳である。これは大学受験やローで全て現役の人の場合である。浪人するとこれに1年、2年と重なるから三振で29とか30歳になってしまう。必死で勉強した挙句、職が無いという羽目に陥るのだから、いまや、ローに行く学生は急減する事態となった。全く合格者の出ないロースクールもある。定員に満たない新潟大学ローなどは毎年10人くらいは合格しているが、募集停止となった。旧司法試験は500人だから、これはもう大変。35才くらいになっても、いや40過ぎても夢を追う人がいた。旧試験では平均33歳が合格平均年齢だった。でも、このことははじめからわかっていたし、覚悟の上でチャレンジしていた。新制度では明るい未来と、高い合格率を売りにスタートしたのだからたまらない。学生はちゃんと見ているから、ローは不人気で、やる気の証は予備試験。合格率はトップローより高い。昔から司法試験に現役大学生で合格するような連中は東大京大には十数名いた。試験の天才たち。そうした連中が予備試験でショートカットして参入してきた。さらに、1500人くらいに絞ろうと言うのだから、ますます大変である。

 4.生活苦

 ローに行って生活費も含めると司法試験は合格迄1,000万円はかかる。貧乏なご家庭では無理なのである。そこで、予備試験という制度も出来たが、実際、合格する連中の半分以上は東大など国公立の学生で、彼らの家庭は皆高収入である。ロースクール別の合格者は慶応とか早稲田が多いが、この中には東大卒も多く、出身大学別に合格者を分類すれば、ほとんど昔と同じだろう。子供の頃から教育費をきちんとかけないと予備試験に合格する基礎学力がついてこない事を知っているはずなのに、政府の役人は見て見ぬ振りなのである。実態と矛盾した制度である。法科大学院では在学中から予備試験を受ける学生が増え、上位校の優秀な学生ほど予備試験経由で合格するケースが多い。というより、予備試験は昔の東大卒の法学部在学中現役合格ができる少数エリート確保の仕組みなのであろう。司法試験合格者のうち、弁護士志望者の1600~1700人中、400人以上が“就職浪人”だという。高給取りの代名詞とも言われていた弁護士の収入も激減している。国税庁による個人事業主として働く弁護士の所得の統計によると、2011年の調査で、登録弁護士の8割を超える2万7094人のうち、22%が100万円以下、19%が500万円以下だった。もちろん、これは経費を多く見た税金対策をした数字なのだろうが。司法修習生の中には、法科大学院の学費のローンを抱えているものが多く、それからさらに300万円を貸与されても、返す自信が無い、弁護士になっても最初は収入が無いから、弁護士会の会費が払えない、食費や本代を削るといった悲惨な状態を訴える人もいる。

 経済的負担に苦しむ司法修習生、そして弁護士になっても続く窮乏。司法制度の根幹が揺らいでいる。法治社会には法曹専門家育成が絶対必要である。英米法と違い、独法の影響の強い日本の法律体系はピラミッドのように膨大な基礎知識が必要だ。だから、司法に適した人材はそもそも誰でもなれるようなものではない。一定の試験をクリアした者にはそれなりの評価と待遇が必要なのである。それを無視して、予備試験の資格を厳しくするとさらに法曹界に行く人間が減るとか、仮定の話におびえている。そして奇妙なエリート選別に酔っている。リスクを恐れる擬似エリート官僚が法治社会を放置社会に陥れている。

5.お粗末な国の支援、強い逆風



 司法修習の間の費用は、昔は国費だったが、今は貸付金で返さねばならない。彼らは殆どが同期の仲間は職業を持って働いているのに逆に借金をさせようということなのである。それならば必ず返せる最小限の仕事は与えなければおかしい。有償ボランティアなど、昔のインターン制度とか今の研修医のように待遇できないのか。市民のための法律相談窓口を各市単位で設けて、事務所と電話代、生活費を一部負担すればいい。それに反して将来社会に貢献できる人間を苦しめて、優秀な人材にハードルを設ける意図は何だろうか。司法試験に通らなかった官僚や国会議員の嫌味に過ぎないのではないか。マスコミも自分たちより優秀な人間を増やすのは反対で、特に権力的な朝日新聞などは司法試験合格者にも厳しく、世における評価を貶めようと狙っている。法曹関係者が何か不祥事を起こすと紙面トップで叩くのが通例だ。法曹志願者の厳しい試験からさらに試練は続く。美人の女性弁護士はテレビ出演で稼ぐが、お笑いタレント並みの扱いで、見せ物のようだ。あんな美人が猛勉強して「弁護士」、動物園じゃああるまいし。








by katoujun2549 | 2014-09-11 13:17 | Comments(0)