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後期高齢者医療制度

1.理不尽な後期高齢者医療制度への攻撃

 08年、後期高齢者医療制度は長寿医療制度と名前も変え、不評のうちに開始された。いかにも官製おしつけという名称に反発があったのだが、この制度は高齢者の意見に耳をかけていないし、広報に失敗した。75才以降の高齢者を後期とすることにマスコミが旗を振り、高齢者を侮辱しているとか決めつけて、制度を批判の波にさらした。それまで、高齢者の医療保険の構造的な危機を取り上げた事も無かったのにである。この制度は10年をかけて厚労省や医療関係者が練ってきたが、事前のPR不足が祟った。一定の所得の少ない高齢者に関しては、経過措置的な減額措置、所得分類があり、内容が複雑で覚えきれない。不評に対応するために泥縄式に付加されたのである。マスコミはもっとこの制度の本質を研究し、積極的な提案も含めて、その必要性、問題点を訴えるべきだ。ところが、制度を分かっているはずもないお年寄りにインタビューし、「年寄りを死ねというのか」と言わしめ、排撃した。自分のような、医療や高齢社会問題に関心があり、研究もした人間ですら分かりにくい制度に対して、そのような明快な発言が出るわけがない。インタビュアーはそれなら何故そう思うのか、何処まで理解して発言したのかを聞き返すべきである。何故殺されるのか、年金からの控除が負担なのか、自分は低所得者だから、1割の自己負担も出来ないのか、毎月高額な治療費、例えば抗がん剤を使っていて、負担できないと死ぬのか、良くわからないのだ。ただ保険料負担がいやなのか。これまで被扶養者として保険を払わなかった高齢者は負担が増える。しかし、低収入の方は保険料の減額もあり窓口負担も1割だ。保険料は、所得による応能負担50%と均等割負担50%の割合で個人ごとに算定され、広域連合区域内同一保険料が適用され、2年毎に見直される。民主党議員は「高齢者を殺す気か!」と叫び続けていたが、本質ではない党利党略のアジテーションであって、何ら根本的な対策にもなっていない。こうしたアジテーションをテレビで聞いた高齢者がおうむ返しにインタビューで答えただけではないか。マスコミは高齢者医療のために拠出金負担に耐えられずに解散を余儀なくされ、政府管掌保険に移行せざるを得なくなった勤労者の保険こそ殺される側ではないのか。自民党でも、この問題に精通した人は少なく、官僚任せ。官僚支配と議員やマスコミのポピュリズムが日本の将来を危うくしている。

2.高齢者医療の無駄を省く
 
 厚生労働省の試算では、2008年度の制度発足時には月額6200円程度(全国平均)になる見通しで発足したが、現在は4500円程度で、徴収は各市町村が行っている。なお、配偶者や子供の扶養家族となっているため保険料を払ってこなかった方は、激変緩和措置として2年間半額。 強制的な掛け捨て保険のようなものだが、これまで、保険料を払ってこなかった一人暮らしの年金生活のお年寄りには月3000円も厳しい負担かもしれないが、何も分からずに殺す気か!と言うような人に限って、薬を飲んだのを忘れたり、無くしたり、必要も無い医療サービスを受けている輩ではないのか。薬には分りづらい事が多い。タケプロンという胃薬は胃の副作用対策に使われるが、別の病院で、風邪をひけば、風邪薬の副作用対策でパリエット、あるいはセルベックスが処方される。これらは重複する必要がないが、処方を医師が書いたときに75過ぎの高齢者が気付いて申告する事は医療関係者でも難しい。自分の飲んでいる薬の名前を全て言える人がどれだけいるだろうか。成分効果が同じで名前の違う薬は無数だから医師でも大変なのである。ところがこうした無駄が実は膨大なのだ。だからこそ主治医制度なども考案されたが、一体どう決めたら良いのか分からない。制度のPRのみならず、中途半端な体制なのである。英国ではGPという診療医師を通さなければ病院や専門医には診てもらえない。ドイツでは保険者が厳しくチェックする。患者側の医療の無駄、重複を防ぐ仕組みが整備される。システムという発想が我が国には乏しい。サービスと規制がバラバラに設定されるから効果が上がらない。

3.社会保障は国家の品格

 高齢者医療制度は国民皆保険の制度を維持するために、勤労者の多い65才までの体系と切り離し、最も利用者の多い高齢者にも負担してもらい、消費税による財源ができるまでは保険制度で対応するものである。保険という仕組みは始めから負担と給付の比率で保険料が決められ、利用率が高くなれば保険料は上がるから、高齢化が進む中では運営内容は悪くなる一方であろう事は簡単に理解できる。しかし、消費税を上げるわけにはいかない。組合健保が解散し続けているような状況では従来の制度は維持できない現実について説明が足りない。経済成長が止まり、また、物価も下がっているデフレ下では付加価値税は政治的にも無理である。しかし、医療費というのは無駄を廃しつつも単なるバラマキではなく、必要不可欠な待った無しの支出であるということである。手術が必要な家族がいたら、余程の事が無い限り費用を惜しんで病院に行かない人はいないだろう。国民皆保険の維持をどうするかという事なのである。命に不公平の無い社会を目指すなら税制的な優先順位が高い。財政的見地から医療福祉費を抑制して行く財務省の考え方が、日本の医療を貧困なものにしている。医療従事者の増員、介護事業者の育成など、今後の体制をOECD諸国並みにするという目標に向けて財政的にも見直すべきである。
 そもそも、国民の税負担は所得税が重い我が国では10%を越える消費税は導入に景気の回復など環境が整っていないと難しい。デフレ下では付加価値税は景気を冷却してしまう。もちろん先進国では全ての国が付加価値税は10%を越えているのである。

4.医療と福祉の垣根の見直しーー制度設計の変更で良くなるのか

 政権交代を経て、厚生労働省は今、高齢者医療制度を廃止し、新しい制度を検討中である。保険制度という枠組みを採る限り、また、民主党というシロオト集団が主導する限り従来の制度を越えるものは難しいであろう。折角、高齢者を分類して、所得に応じて保険料負担を分けて行く仕組みも作り、地域に保険者機能を持たせたという構造を反古にするのはどうかと思う。75才以上の高齢者の病気には高血圧や糖尿病、心臓病、癌といった慢性病が多い。しかも、80も過ぎれば治療に寄って完治する事は難しい。しかし、認知症も含めれば、こうした高齢者を苦痛から救い、介護する家族への施策は介護保険施行後も貧困だ。この分野を医療で全て解決しようと思えば、莫大なコストがかかり、財務省の言う通り財政は破綻する。しかし、福祉を充実させ、医療と緩和ケアも含み介護との垣根を低くして、日常的な看護を医療から外し、在宅や施設介護に力を入れるべきである。これが小生の提言だ。日本の病院入院日数は100日を越え、先進国の中では突出して高い。しかし、これは高齢者の長期入院が数字に含まれているからだ。海外では入院は治療のためであって、療養は別の施設が整備されている。在宅訪問看護、医療も含めてこれらは病院の入院日数に数えられていない。

5.景気の回復こそ急務

 社会保障と税負担は相関性がある事は当然である。世代間で対立的な政策を採りたくないのは分かるが、殆どの政治家や、官僚は消費税によってしか、これからの福祉は維持できないと思っているのである。637兆の国債残高9.8兆/年の利払いという財政的重圧はあるが、これは対外債務ではない。景気が回復しなければ税収は増えない。景気の後退期こそ財政出動が必要だが、効果を上げるような策が無い事が問題なのである。効果が上がるというような自然現象的なものではない。たとえば、教育給付金を全世帯にということか、所得制限かとおうような平等論ではなく、第二子から、また第三子の場合は増額といった差別化がきめ細かく行われなければ効果は一時的である。問
題の核心を改革する政治が行われるのはいつの事だろう。日本航空の破綻が日本の未来を物語っている。

by katoujun2549 | 2010-01-20 00:09 | 医療介護福祉 | Comments(0)