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イスラエルにおける村上春樹

 今年の名言で一番は、2月15日にイスラエル賞の授賞式で村上春樹のスピーチである。
 ブログで翻訳されたものを紹介したい。http://ahodory.blog124.fc2.com/blog-entry-201.html参照 

別のブログでの記事も下記にコピーさせて頂きました。
 
これだけの内容が、マスコミでは不思議な事にあまり話題にならない。新聞では勿論報道されたが、内容としては鳩山総理の国連演説などより遥かにレベルが高い。
村上春樹は今年イスラエルで公演を行ったが、そのときイスラエルはガザ攻撃に
よって大きな犠牲をパレスチナにもたらした直後だった。彼は”Always on the side of the egg”
『常に卵の側に』
So I have come to Jerusalem. I have come as a novelist, that is - a spinner of lies."
 今、僕はエルサレムにやって来ました。小説家、すなわち嘘の紡ぎ手として。

Novelists aren't the only ones who tell lies - politicians do (sorry, Mr. President) - and diplomats, too. But something distinguishes the novelists from the others. We aren't prosecuted for our lies: we are praised. And the bigger the lie, the more praise we get.
 嘘をつくのは小説家だけではありません。政治家も——失礼、大統領閣下——外交官も嘘をつきます。でも、小説家は他の人たちとは少し違っています。僕たちは嘘をついたことで追及を受けたりしません。賞賛されるのです。しかも、その嘘が大きくて立派であるほど、賞賛も大きくなります。

The difference between our lies and their lies is that our lies help bring out the truth. It's hard to grasp the truth in its entirety - so we transfer it to the fictional realm. But first, we have to clarify where the truth lies within ourselves.
 僕たちの嘘と彼らの嘘との違いは、僕たちの嘘は真実を明るみに運び出すためのものだ、ということです。真実をそっくりそのままの形で把握するのは難しいことです。だから僕たちはそれをフィクションという形に変換するのです。でもまず手始めに、自分たち自身の中のどこに真実が潜んでいるかを明らかにしなければなりません。
Today, I will tell the truth. There are only a few days a year when I do not engage in telling lies. Today is one of them.
 今日、僕は真実をお話ししようと思います。僕が嘘をつくことに従事しないのは年に数日だけですが、今日はそのうちの一日なんです。

When I was asked to accept this award, I was warned from coming here 
 受賞の申し出を受けたとき、僕はエルサレムへ行かないようにという警告を受けました。

 村上さんは、警告の内容が、村上作品のボイコット予告であったことを明らかにします。そしてそのような事態の理由として、老人や子供を含む一千人以上の非武装の市民がガザでの激しい戦いで命を落としたという国連のレポートについて触れます。

I asked myself: Is visiting Israel the proper thing to do? Will I be supporting one side? and that I endorsed the policy of a nation that chose to unleash its overwhelming military power.
 僕は自問自答しました。イスラエルに行くのは適切なことだろうか? 当事者の一方を支持することにならないだろうか? そして、圧倒的な軍事力を解き放つという選択を下した国家の政策を是認することになってしまわないだろうかと。

I gave it some thought. And I decided to come. Like most novelists, I like to do exactly the opposite of what I'm told. It's in my nature as a novelist. Novelists can't trust anything they haven't seen with their own eyes or touched with their own hands, so I chose to see, I chose to speak here rather than say nothing. So here is what I have come to say.
 考えた末に、僕は来ることに決めました。たいていの小説家と同じように、僕もまた、人から言われたのと正反対のことをするのが好きなんです。やれやれ、これは小説家としての性みたいなものですね。小説家というのは、自分の目で見て、自分の手で触れたものしか信じることができないんです。だから僕は、自分の目で見ることを選びました。黙っているよりも、ここへ来て話すことを選びました。

 ここへ来たのは、ダイレクトな政治的メッセージを伝えるためではない、と村上さんは述べます。なぜなら、自分は超現実的な物語を表現手段とする小説家であり、物事の正邪の判断は、他の人々が、おそらく歴史がするだろうから、と。
 そして、「個人的なメッセージ」を伝えたいと前置きして、次の話を始めます。


It is something I keep in my mind, always keep in my mind while I am writing fiction. I have never gone so far as to write it on a piece of paper and paste it to the wall, rather it is carved into the wall of my mind. It goes something like this-
 それは、僕がいつも心に留めていることです。小説を書くとき、いつも心に留めているのです。紙に書いて壁に貼ろうとまで思ったことはありませんが、僕の心の壁には刻まれています。言ってみれば、こういうことです——

"If there is a hard, high wall and an egg that breaks against it, no matter how right the wall or how wrong the egg, I will stand on the side of the egg”
『硬くて高い壁と、そこにぶつかって行く一個の卵があったとしたら、たとえ壁がどんなに正しくても、卵がどんなに間違っていたとしても、僕は卵の側に立つ』


「壁」の側に立って書く小説家がいたとして、その作品に何の価値があるだろうか、と村上さんは問いかけます。また、「壁と卵」という比喩には、「爆撃機や戦車やロケットや白燐弾」は「壁」であり、「それらによって打ち砕かれ焼かれてゆく非武装の市民」は「卵」であるという意味もあると言います。さらに、この比喩にはより深い意味もあるから、以下のように考えてみて欲しいと呼びかけます。僕らはみんな、一人ひとりが一個の卵なのです。壊れやすい殻に入った、唯一無二の魂なのです。僕らはみんな、高い壁に立ち向かっています。壁とはつまりシステムのことです。しばしば一人歩きを始めて、私たちを殺したり、冷たく、効率的に、システマティックに他人を殺すように、私たちに仕向けたりするシステムのことです。
I have only one purpose in writing novels. That is to draw out the unique dignity of the individual. To gratify uniqueness. To keep the system from tangling us. So - I write stories of life, love. Make people laugh and cry.
 僕にとって、小説を書く目的はひとつだけです。それは、個人が持つ独自の尊厳を引き出すことです。独自性を満たし、システムにからめ取られないようにすることです。だから——僕は、生命の物語を、愛の物語を、人を笑わせ、泣かせる物語を書くのです。
 ここで村上さんは、昨年90歳で亡くなられたお父さんのエピソードについて話し始めます。
 元教師であり僧侶でもあったお父さんは、中国戦線に出征し、戦後ずっと、毎朝必ず仏壇に額づいて敵味方双方の戦没者のために祈りをささげていらっしゃいました。戦後生まれの村上さんは、祈るお父さんの後姿の周りに漂う「死」の存在を感じたそうです。それは村上さんがお父さんから受け継いだ数少ない、最も大切なもののひとつでした。
 それから村上さんは、「皆さんに伝えたい、ただ一つのこと」として、私たちはみな人間であり、国籍や人種や宗教を超えた個人であり、壁に直面した卵なのだと言い、以下のように言葉を続けます。To all appearances, we have no hope...the wall is too high and too strong...If we have any hope of victory at all, it will have to come from our utter uniqueness.
 見た限りでは、私たちには希望が無いように思えます。壁はあまりに高く、あまりに強い。もし私たちに勝利への何らかの希望があるとすれば、それは私たちの完全なる独自性を信じることと、魂を結び合う温もり※から来るものでなければならないでしょう。
※ハアレツ版に基づいて補足しました。
 Each of us possesses a tangible living soul. The system has no such thing.We must not let the system control us - create who we are. It is we who created the system.
 私たちひとりひとりには、形ある、生きた魂があります。システムにはそんなものはありません。システムに私たちをコントロールさせてはいけないのです。システムが私たちを作るのではありません。私たちがシステムを作ったのです。
 I am grateful to you, Israelis, for reading my books. I hope we are sharing something meaningful. You are the biggest reason why I am here.
 イスラエルの皆さん、僕の本を読んでくださったことに感謝します。僕たちが意義のある何かを共有できていれば嬉しいです。あなたたちこそ、僕がここへ来た最大の理由です。
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by katoujun2549 | 2009-12-12 15:06 | 国際政治 | Comments(0)