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 砂漠の洪水

 40年前、大学の地学の授業で、講師が砂漠で溺死しそうになったという話を聞いて、へえ、そんなことがあるんかなあと思ったが、面白かったので今だに覚えていた。その先生、タクラマカン砂漠に地質調査に行ったときの話で、自分の話に陶酔するかのような口調で、びっくりした体験を話していた。ほとんど雨が降らないところなのに、急に雨が降って来た。それだけでも驚きなのに、周りからどんどん水が流れ込んで来て、平らなところ、高台は遠く、逃げ場が無い。逃げる方向も場所も分からない。そのうちに水嵩が増して来て、はじめは歩ける程の深さだったが、やがて、増水が激しさに、呆然としてしまった。命からがら何とか、最後は溺れそうになりながら水深の浅いところに辿り着いた。砂漠というのはとんでもない怖いところだと思ったそうだ。確か、子供の頃、ディズニーの記録映画を見てこのことは知らない訳ではなかった。「砂漠は生きている」という名作、そこでも砂漠が大洪水になり、ナイアガラのような滝まで出来ていた。水は茶色の泥水だった。

 ところが、昨年11月、サウジアラビアの第二の都市ジェッダで洪水があって120人以上の死者が出た。年間降水量が7日しかない都市で6時間で72㎜という集中豪雨だった。砂漠では、普段はカラカラに地面が乾いており、いざ豪雨になると水を吸い込めない。そこで、水はあっという間に低いところに流れ込み、危険なことになる。当時、メッカの巡礼の季節で、洪水の恐ろしさを知らない外国人が多く死者の中にいた。自動車も1400台が破損したという。実は、砂漠では、水を失った旅人が渇きで亡くなることよりも水死するケースの方が多いそうだ。サウジでは毎年こうした大きなものこそ少ないが、毎年砂漠で水死する人が数名はいるんだそうだ。集中豪雨はたまにあるらしく、ワジという水の無い川の後が昔の洪水の後を物語っている。

 旧約聖書のノアの方舟と洪水物語も考古学的に関連づけた説がある。チグリス・ユーフラテス川流域で本当にあった大洪水による猛烈な土砂の堆積の痕跡と都市の埋没が発掘調査で分っている。ウルとウルクあたりの出来事だが、これは、さらに、普通の洪水ではなく、インド洋に落ちた大隕石による津波で、この波はトルコのアララト山まで押し寄せたこともあり得ることで、神話的な物語の根拠は科学的にも説明されるのだそうだ。まあ、これも説ということだが、自然というのは全く予測不能なことがある。

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