「本当は噓つきな統計数字」門倉貴史著 幻冬舎新書

 科学の世界も、政治や経済の世界も統計数字が満ちあふれている。しかし、この統計数字は人々を説得するときに力を発揮すると同時に、真実を歪めることも多い。この根本原因は、データーのゆがみ、サンプルやカウント方法、確率の操作である。また、プラス要素とマイナス要素の比較がなされていない。最初から偏向した証拠をベース(確証バイアス)するなど、いわゆる偏向—バイアスがかかっているといった要素が、結論を歪める。
 
 また、科学的に確立されていない基準値の存在(閾値;いきち/境界値)によって政治的に調整されたりする。始めから結論にあわせたデータ収集やアンケート回答に噓がある場合等、統計数字に隠された様々な要素を具体例を上げながら示している。著者はエコノミストとして、様々な事例をポイントとしてあげており、我々の情報リテラシーを高めてくれる。数量バイアス、心理的偏向バイアス、エイジヒーピング(age heaping)サンプリングが母集団の特性を反映していない。確率や数字の操作が社会的に影響を与えた実例は無数にある。数えられないものを無理に数えた結果、イベントの参加人数にみられるカウント誤差、確率における不確実性(エルスバーグのパラドックス)の見方が誤ったばかりに起きたリーマンショックなどである。

 この中で印象的だったのが、黒人向けの慢性心不全治療薬バイデルの認可取り消し問題である。バイデルは黒人によく効くという申請をしたが、治験のデータ不足ということで認可されなかった。これはたったの49人であり、本来数千人を必要としている基準に満たなかった。これは特許の延長を狙った為に起きたのである。
 確率における母集団の主観によっても変化するベイズ統計学の説明も参考になる。この主観確率は迷惑メールのフィルターに応用されている。

 交絡因子もバイアスを生じる原因である。例えば、タバコは癌の原因として認知されるようになった。しかし、飲酒もかつてはそうであった。これはタバコを吸う人と飲酒との関係は相関性があり、タバコを吸うひとには飲酒量の多い人が重複しているという結果とからくるもので、飲酒単独では発がん性は少ない。これがタバコと癌の交絡因子である。この本では触れられていない。

 また、今日問題になっているTPPの経済効果について、これは統計のベースがなんであるかが公開されていない為に政策の溝が埋められない。国家の存亡が関わる事ではないか。経済産業省と農水省との経済効果の推定が正反対であることだ。経済産業省は自由化により、貿易が振興され、農産物に加え、関連産業への影響などGDPを年10兆円プラスとし、一方農水省は7兆9000億円のマイナス、内閣府は2.5〜3.5兆円押し上げられ、GDPは0.5%上がると、自省に都合の良いデータを作成し、政府間での調整が行なわれていない。データを集める人間の意図が大きく影響していることなのである。






確率でバイアスを除去するオッズ比
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大阪府立成人病センターの医師へのインタビューをもとに編集されている。
今や国民の半分が人生のどこかで癌に罹る。癌で死ぬ人は30%。3年前にようやく、癌基本法が制定され、地域癌登録が制度化された。先進諸国に比べて、何で今頃という感じがあるが、とにかくスタートしたのだ。しかし、大阪府では1962年から癌登録事業を薦めて来た。ところが、今なお地域がん登録事業に取り組んでいる自治体は35でしかない。特に、東京都はまだである。これは東京という1,300万人の人口と、880万人の差ということもあるし、東京との場合、埼玉、千葉、神奈川から県をまたがって治療にくるから、地域統計を取るのが難しいという事情もある。しかし、癌の罹患率、5年目、10年目の相対生存率、どんな性の人が、そのステージで癌に罹り、どう診断され、治療されたか。これが地域毎に統計的に整理されなければ、医師は正確な判断を下せないだろう。大阪府立成人病センターはこの大阪の癌統計事業の中核としてデータの蓄積を行なって来た。近年、胃がんで死ぬ人は減っている。これが、癌になる人が減ったのか、早期発見やピロリ菌除去によるのか、手術の成果なのかは統計によらなければ分らないだろう。実際、大阪府の統計では癌に罹る人が減っているのである。これは冷蔵庫の普及により、長い間に塩分の多い食品の摂取量が減った事の影響が大きいと言う。これは世界的な傾向なのである。東京では結局、大きな病院で、癌毎の治癒率の高い病院を選ぶしかないだろう。胃がんに関しては、病院格差が下がっているそうである。国を挙げてがんと戦うといってもこうしたデータもなく何を戦うのだろう。相手の戦力や自分達の成果も分らないまま、国が何を出来るのか。この国之の政府のやる事は泥縄式だ。
この本では、難治癌といわれるステージ、膵臓、胃がん、乳癌、白血病、肺がん、子宮がんなどの府立病院の医師達の奮闘による治療の歴史と成果が語られる。癌治療もここまできたのかと思わせてくれる。心強いルポである。決して、先端医療機器や技術の紹介にとどまらず、長い医師達の奮闘の結果が語られ散ると言う点、著者のルポの力量であろう。
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