2017年 09月 12日 ( 1 )

クリストファーノーラン監督作品。ダンケルクを新宿の東宝シネマズで見た。

この作品の狙いは、観客の没入感である。ノーランは敢えて、CGを使わず、航空戦も、沈没する船からの水との悪戦苦闘や溺死寸前の切迫感を描ききった。脱出する兵士、彼らを守る戦闘機、民間の小型船の奮闘など、同じ時間に起きた物語を三方から描き、それぞれから動きを見つめるストーリー展開である。

ダンケルクの戦い、あるいは、イギリスの救出策のダイナモ作戦全体を俯瞰する映画手法はかえって全体を見えなくする。むしろ、脱出しようと最悪の状態から抜け出そうとする兵士。必死の航空戦で、燃料や時間との戦い。民間船の英雄的な貢献などを一度に描こうとした。

戦争の現実を見事に表現している。敵のドイツ軍は戦闘機や爆撃機しか見えず、弾丸や魚雷がどこからか飛んでくる。実際の戦場にいた人間の目線で描いている。近代戦は敵の姿が見えずに生死が別れる。そんな不条理を描くとこうなるということだろう。


英仏軍はドイツの電撃戦の結果、ダンケルクに追い詰められ、包囲された。約40万人の兵が壊滅の危機にあったが、際どいところで、イギリスの港から、市民を含め、小型船やヨットも総動員し、救出に成功した。3万が捕虜になった。もし、これに失敗し、30万人が捕虜になったら、イギリスは窮地に追い込まれ、歴史は今とは違う展開になっただろう。イギリスは和平に転換し、チャーチルは失脚、場合によってはイギリスはドイツの支配下に置かれたかもしれない。アメリカがバックにいたから、ドイツはイギリスに侵攻するのは無理だが、アイルランドやスコットランドの一部 が占領されたかもしれない。もう少しドイツが力を蓄えた上でソ連に侵攻していたら、モスクワまで占領できたかもしれないのである。そうなれば、日本は南進策より、ソ連を攻める。その時は中国戦線を凍結しなければ、日本は中国とソ連を相手にしなければならないから、いずれ力が尽きただろう。イギリスが窮地に陥れば、第一次大戦の時のようにアメリカやカナダ、オーストラリアが参戦し、結果は同じだっただろう。

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ダイナモ作戦で初めて投入されたスピットファイア戦闘機


ダンケルクでは、連合軍は1万人の戦死者を出した。しかし、ドイツも18千人の戦死戦傷者を出し、もうひと押しすれば勝てるとも思えるが、実はドイツ側もへトヘトで、カレーではイギリス軍が抵抗し、ダンケルクまでは攻め込めなかった。ドイツ軍歩兵は覚せい剤を使って、連日の戦闘に従事した。歩兵同士の戦闘では互角だった。これは第一次大戦の時を見れば分かるが、一進一退で、戦車軍団は補給が尽きた状態。ドイツは クライストなどの攻撃反対派とグデーリアンの攻撃派が対立し、結局、ヒトラーはナチス生え抜きのゲーリングの大言壮語に動かされ、航空攻撃での殲滅を選択した。これが見事に失敗し、ダンケルク救出劇は連合軍の大成功に終わった。ドイツは航空機を100機以上失った。連合軍は駆逐艦など6隻、戦闘機470小型船も200を失った。しかし、30万の英仏軍の人的資源を温存して、後の北アフリカやノルマンジー侵攻に余力を残したことは、やはりダンケルクは大成功だったということである。9日間に、860隻の船舶が急遽手配され、331,226名の兵英軍192,226名、仏軍139,000名を救出した。

ドイツ空軍は6隻のイギリス駆逐艦、3隻のフランス駆逐艦は9隻の大型船とともに撃沈、19隻の駆逐艦が損傷し、200隻以上の連合国艦船が沈んだ。ドイツ空軍機が132機の航空機を失ったのに対し、イギリス空軍損失は474機だった。ゲーリングは航空戦でも、船舶攻撃でも成果を上げたが、結局脱出は成功し、戦略的には失敗だった。連合軍、特に航空戦は死にものぐるいの戦いであった。この事は意外に知られていない。この作品では航空戦にライトを当てている。クリストファーノーランが描きたかったのは、ダンケルクやダイナモ作戦ではなく、その場にいたら、観客含め、こんな目にあうかもしれないという現実である。






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