メル・ギブソン監督によるHacsawrRidge という映画

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またもや、メル・ギブソンが監督し、HacsawRidgeという変な戦争映画が昨年公開された。you-tubeで一部を見ることができる。沖縄戦の史実、日本では前田高地の戦いという激戦で、今の浦添市での出来事である。アメリカ陸軍のDesmond T. Dossという衛生兵の物語である。彼は兵役につくが、銃を射つことをキリスト教の信念に基づき拒否し、幾多の弾圧にめげず、衛生兵として従軍、沖縄戦で決死の活躍を見せ、70人以上の負傷兵を救った。その功績でアメリカの歴史で初めて名誉勲章を授与された。そのテーマは素晴らしいのだが、映画表現ともなると、メル・ギブソンの残虐趣味がいかんなく発揮され、実に酷い映画となった。この映画の製作意図は一体なんだろうと思わせる。日本公開は6月だそうだ。沖縄戦の実態は鉄の暴風といった表現、ひめゆりの塔とか、悲惨な物語が多々あるが、アメリカ兵にとっても過酷な戦いであった。この戦いではアメリカ兵は300人以上の戦死者が出たが日本人は10倍であった。この映画では日本兵は残虐な攻撃者で、どんどん機関銃で撃ち殺される。日本兵はまるで、野蛮人のように凶暴である。日本軍は統率においては世界でも名だたる軍隊であったことは無視されている。沖縄戦の特徴は日本軍の巧妙な陣地構築による抵抗がメインで、米軍は日本兵の姿を見ることができないことも多かった。しかし、沖縄戦の現実は実はそのようなことよりも、一般人が軍人以上に殺されたことにある。この映画の舞台となった浦添では住民の半数が犠牲になった。組織的な集団投降もあったが、米軍高官が狙撃されたりすると、住民の虐殺、投降兵の処刑なども行われ、絵で描いたような戦場ではなかった。映画パシフィックではその実態が描かれていた。アメリカは国土が近代戦の戦場になっていない。彼らにとって戦場は外国であり、スポーツのような勝ち負けの世界だ。戦死した兵士のみが過酷さを味わうような表現になるが、実態は一般の人々の恐怖や苦しみ、悲しみは大きく、そこは伝わってこない。商業化されたアメリカ映画の限界かもしれない。
沖縄戦の過酷な状況に関しては、日本の映画界も描くべきではあるが、アメリカの物量、大規模な攻撃の様子が再現できない。お金がかかりすぎるし、彼らの装備なども時代考証がうまくできない 。近年、パシフィックや、硫黄島からの手紙など、アメリカ側から映像が制作されている。これらにおいても、アメリカ軍も必死に戦った。前田高地は嘉数高地の戦いの後4月26日から行われた。嘉数ではアメリカ軍の戦車は30両のうち22両が破壊された。日本軍の反斜面陣地が機能した。しかし、日本軍はこの戦いで兵力の半分を消耗させて結局敗北することになった。日本軍は牛島司令官の下に「典型的なおバカ帝国陸軍軍人」の長勇中将という参謀が前近代的な戦法で突撃を主張して戦力を失い自滅したが、その後、司令官は八原大佐というアメリカにも留学した見識ある参謀の意見を取り上げて持久戦に転じアメリカに大損害を与えた。反斜面陣地の概念図
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映画では今回のハックソーリッジもそうで、日本ではどうしても制作できないのが戦闘シーンなのである。アメリカ側からの日本軍はおバカな突撃をする姿しか映像化されない。東宝映画激動の昭和史シリーズ「沖縄決戦」が1971年に公開されている。日本は中国戦線に関しても映画は少ない。こうしたことが、日本の社会における戦争への反省のつまずきになっているとしたら残念なことである。沖縄では摩文仁の丘が観光地になり、その悲惨さを伝えているが、アメリカとは前田高地から嘉数、シュガーローフ、首里攻防戦が最も激戦であった。日本軍は犠牲は多かったがよく戦った。米国側は1万2520人。何千人もの米兵が戦後もPTSDで苦しんだ。ヨーロッパ戦線では見られない規模であった。日本側はその15倍、18万8136人が亡くなったとみられている。このうち沖縄県出身以外の日本兵は6万5908人。沖縄県出身の軍人・軍属は2万8228人。一般の住民は9万4千人。沖縄県民全体では12万2千人以上、県民の4人に1人が亡くなったといわれている。沖縄戦が終了後、アメリカ兵に強姦された女性は1万人ともいわれ、戦後も沖縄の苦難は続いた。日本映画は沖縄の悲劇の一部しか伝えていない。アメリカは総司令官のバックナー中将も戦死した。日本の牛島司令官も自決したが、両軍の司令官が戦死するという厳しい戦場だった。多くの戦死者、特攻被害を考えると本土決戦でどれだけの被害が出るか恐怖し、原爆の使用に踏み切ったことも現実であった。太平洋戦争において日本軍の近代戦に関する誤りから損害が大きかったこと、沖縄においても多くの作戦の誤りから、必ずしも物量の問題だけではない。結果的には県民の25%を失ったことを考えない歴史認識は誤りである。日本が悲劇の主人公であったわけではないことを国民は知らされていない。
日本側の記録として外間守善氏の「私の沖縄戦記ー前田高地 60年目の証言」を読むことをお薦め致します。

私の沖縄戦記 前田高地・六十年目の証言 (角川ソフィア文庫) 文庫 – 2012/4/25


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by katoujun2549 | 2017-05-06 22:22 | 映画 | Comments(0)