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見たくない 映画「Чекист(チェキスト)」

2012年に制作されたロシア映画。見たくないものを見てしまったというのが感想。すりガラスをでかいたようなある種の不快感のある後味がした珍しい映画。これはロシア革命時、赤色テロに従事した青年の姿を描いたもの。you-tubeで見ることができる。
Chekist Чекист '1992' Russian film 'Eng-Subs' (full)
1918年8月30日、レーニンが会合での演説を終え帰途につこうとするとき3発の銃声と共にレーニンは倒れた。そのうちの2発が彼の肩と肺に命中した。レーニンは他の暗殺者の存在を恐れ病院への搬送を拒絶した。医者は動脈に接した銃弾の摘出は危険すぎたので手術しなかった。レーニンはどうにか回復したものの、暗殺未遂による負傷が、死因となった脳梗塞に大きく影響したと考えられている。なお、この時現場にいたエスエル党ファーニャ・カプラン逮捕され、即決裁判の後9月4日に処刑されたが、彼女は既に失明同然で犯人は別人だった可能性がある。いずれにしても、この事件から「報復」と称して事件とは無関係の512人もの旧貴族や臨時政府の閣僚を含む政治家、軍人が、ただ帝政派であるとして逮捕、処刑された。赤色テロが始まった。
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レーニンはフランス革命の失敗を引き合いに故意に恐怖政治を作り出した。犠牲者の数は定かではないが、数万人が裁判もなく殺されていった。チェカという国家秘密警察、「反革命・サボタージュおよび投機取り締まり全ロシア非常委員会」の略称。議長はジェルジンスキー。チェーカーとも表記する。後のGPU、KGB。その作業に従事したのは若いインテリのリーダーと、処刑に従事した無教養な、はみ出し者の若者たち。彼等には次第に心を病むものが出てくる。単なる処刑マシーンであり、革命の名のもとに殺人が正当化されてゆく。チェキストのリストに載ったらおしまいだ。地下の収容所に入れられ、呼び出されると五人ずつ丸裸にされ、ドアが五つある部屋に追いやられ、ドアに向かって後ろを向いたとたんに拳銃で頭を打ち抜かれる。そして、天井の穴から効率よく足をロープで縛られて吊り上げられ、表のトラックに丸太のように並べられてどこかに捨てられる。このシーンが延々と続く。

レーニンの罪については評価は曖昧で、ソ連崩壊直前にようやくレーニンがロシア革命初期のころにテロリズムを頻繁に行っていたことが明らかとなり、チェーカーの恐るべき実態も徐々にわかってきたのだという。レーニンの政策で死んだロシア人は餓死や追放、流刑で1000万から4000万人と言われ、殺戮に加担した人も殺されて真実は分からない。

「チェキスト」からは、ソ連秘密警察の根っこの部分にある思想を読み解くことができる。「おれたちは市民法廷じゃない。大衆抑圧のための剣なんだよ」「革命は哲学じゃない」などと語り、彼らはテロリズムを行っていると自覚していた。無実の人を大量に巻き込んでいることも知っていたし、目指す革命が平和で平等で豊かで行儀の良い社会を作るとも思っていなかった。暴力と殺戮と即決裁判で、ロシア全土に地獄を作り出していることをよくわかっていた。チェキストの多くは民族的少数派で貧困層に位置し、十分な教育も受けられず、貧困の中で抑圧され、絶望と憤怒の中で少年時代を過ごした人々。銃殺班の多くは17歳ぐらいのティーンエージャーで、やさぐれた非行少年、彼らが今や、どんな金持ちでも貴族でもやりたい放題に殺して良い。彼らはサディストや殺人者・犯罪者、大企業の元熟年労働者、元ロシア兵、、元水兵、地方大学の闘士、非行少年たちなどだった。中には14歳の少年が甲高い声で「革命の名の下におまえを逮捕する!」ととある将軍のアパートを令状もなく急襲したというから驚きである。この作品はそうした不愉快な時代をグロテスクに描いている。怖いものを見たい方にはおすすめである。


by katoujun2549 | 2017-04-02 14:39 | Comments(0)