姜尚中著 「心の力」「続悩む心」を読む

姜尚中著 「心の力」「続悩む心」を読む

 姜尚中氏が続悩む心に続き、現代人の生き方を問う著作である。何故、今日このような問いかけに人々が答えを求めているのだろうかと思うところから読んでみた。姜尚中氏は自分より3年年下である。団塊の世代からは少し遅れ、全共闘の学生騒乱の時代を眺めてきた。彼の時代を読む目はひとつは日本の敗戦後の平和と高度成長時代、そして、全共闘の騒乱時代、そして、3.11東日本大震災後の時代認識の変化に注がれている。
 悩む力において、彼はマックスウェーバーと夏目漱石を取り上げ、二人の共通性、また、何を問題にしたか、をあげながら現代社会の傾向に関して新しい視点を提供しようとしている。自分は夏目漱石も、マックスウェーバーも読んだのは50年も前のことで、すっかり忘れていた。改めて読んでみようかなという気にもさせられた。「続悩む力」では、ウェーバーから、さらに漱石が学んだとされるウィリアムジェイムスを取り上げている。さらに、イギリスの無心論者ドーキンス、経済学のシューマッハ、夜と霧を書いた精神分析学者フランクルにも枝を広げている。悩みを求める人間の究極の答えは、フランクルにあるようだ。フランクルが人間の価値として1.創造、2.経験、3.態度 にその真価があるとしている。幸せをつかむ道である。人間はいつかは死ぬ。その中で幸せとは一体何かである。楽観論も悲観論も受け入れて、死や不幸、悲しみや苦痛、悲惨な出来事から目をそらざず、だからこそ、過去を大切に人生を存分に生きる道筋を真面目に考え、示すことが存分に生きる道であることを姜氏は伝えようとしている。「心の力」ではトーマスマンの魔の山の主人公ハンスと夏目漱石のこころの後日談として先生の相手役、私こと河出育郎の後日談として、二人が日本で出会うという著者の創作小説を組み込み、トーマスマンと夏目漱石の見た時代と現代を対比させながら、「心の力」に必要なものは何かを追求している。トーマスマンやマックスウェーバーが置かれた時代環境と、夏目漱石の時代の日本、そして現代が非常に似ているという。第1次世界大戦前の教養主義的世界をトーマスマンは魔の山のサナトリウムで小宇宙のように描いている。夏目漱石は日露戦争後の日本、さらに姜氏は「心」の後日談として戦中戦後の日本を河出育郎を、また、魔の山のハンスがワイマール時代からナチス時代を生き抜いた人物として日本の箱根で出会わせる形で小説タッチで描いている。「語り継ぐ」ということで心の先生の万年筆を、また、ハンスの記憶にある代々伝わる銀の洗礼盤を象徴として悩む力から心の力を得る道を説いている。
 東日本大震災と原発事故は日本人のこれまでの時代観を先の見えないものにしてしまった。先の見えない生きにくい時代である。科学や市場経済8への不信、さらにはイスラム世界の悲劇を名度を前にわれわれは立ちすくむ。そこに未来を切り開く処方箋として「悩む力」を心の力に振り向けることを提言している。

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by katoujun2549 | 2015-04-09 15:01 | 書評 | Comments(0)