スターリンのジェノサイド:ノーマンMネイマーク著みずず書房

 
「スターリンのジェノサイド:ノーマンMネイマーク著・みずず書房 根岸隆夫訳」

 赤色テロルとスターリンの血の粛清は知られている。あまりにも大きな規模と犠牲者の多さから、何も、当時の秘密警察の一次資料が無くても覆い隠せない。いまさらという感じもあるくらいだ。ところが、本家のロシアでは過去の出来事となりつつある。反省も無い。ナチスの反省から民主主義をスタートさせたドイツとは全く違う。この粛清は政治行動ではなく、むしろスターリンの蛮行、ヒトラーと並ぶジェノサイドであった。語りつくされたようで実際には国際社会では忘れられつつある。過去ではなく今日的問題。何故、今ロシアがシリアの混乱に冷淡なのかも関係しているように感じる。彼の名言に「一人の人間の死は悲劇だが、数百万人の死は統計に過ぎない」というのはまさに彼が行った出来事だったのです。

 スターリンの行状を歴史的に精査すると、彼の行動はレーニンの時代から始まっている。そしてその恐怖政治の創始者はレーニンなのだ。ロシア革命の理想も、目的もレーニンは少数グループとして横取りし、功績のあった人々を反革命と烙印を押し、弾圧し始めた。そうした暴力行為はすでにレーニンの権力奪取行動から始まり、スターリンにおいて開花したといってよい。ロシア革命の正体をあからさまにする歴史の見直しを伴う大事件なのである。自分は革命の主体であったボリシェビキがなぜスターリンに弾圧され抹殺されたのか、不思議に思っていたが、その答えはここにある。赤色テロルは歴史の教科書や授業ではまったく語られないことなのである。この点はトロツキーも同様である。だが、レーニンは多くの教養ある革命家とは違い、その暴力に関しては容赦なく実行した人だった。レーニンの蛮行にかかわったカーメネフ以来、スターリンの直下のNKVD(秘密警察)幹部であった、ヤゴーダ、忠実なスターリンの殺人実行者エジョフ、そして最後に生き残ったべリアもすべて銃殺されている。このことを東京外国語大学の亀山郁夫氏は「大審問官スターリン」という大著で詳しく語っている。
 
 この本は、最後に訳者のあとがきに著者の目的と日本が今後ロシアと国交を考えるにあたっての着眼点、視点が書かれている。是非ここだけでも読んでほしい所。ジェノサイドは今も国際法庭で裁かれる犯罪。何故あのような事が繰り返し行われるのか、共産主義者の行った大量殺戮をどう定義していくのか、又、スターリンの行った粛清や民族抹殺を狙った強制移住、政敵とみなされた民衆や軍人に対する容赦無い処刑、さらにウクライナでの農民餓死政策などもジェノサイドとして歴史的に再定義しなければならない。著者が本著で訴えているテーマである。ソ連も中国も戦勝国であり、特にソ連はナチスに2000万人の犠牲を払い、収容所を解放したために当時のリーダー、スターリンは国家犯罪首謀者とはなっていない。しかし、彼は紛れもなくヒトラーと並ぶジェノサイド首謀者であり、犯罪者である。20世紀にいったいどれだけの人々が荒唐無稽なユートピアのために殺害されたか。また、独裁者の権力を維持する為に、その反対者や将来に敵対するというでっち上げのため、また、巧妙な密告や逮捕、拷問の為に殺された人々がいたのか、未だに全貌は歴史的に位置づけられていない。敗戦国のドイツはナチスのホロコーストを世界から裁かれたが、それにも劣らないソビエトの殺戮は国家システムによって実行に移されていった。

 歴史上で最大最悪の犯罪はジェノサイドである。国家犯罪でもある。アフリカのウガンダでのツチ族フツ族の抗争やセルビアのミロシェビッチの犯行、ポルポトの殺戮、あのナチスのユダヤ人絶滅計画などが代表的である。歴史が繰り返された。ソビエトでの蛮行が彼らを正当化し、影響していないとは言えない。何故か共産主義者の犯行である文化大革命での1000万人を超える犠牲者やスターリンの犯行はそうではないのか?ジェノサイドという言葉の定義はやはりナチスの行為がモデルになっている。しかも、ユダヤ人ばかりが脚光を浴びる。ナチスはロマなどの少数民族。共産主義者をはじめとする反体制派、ロシア軍の捕虜なども合わせれば数の上ではユダヤ人以上の殺戮を行った。中国共産党、特に毛沢東は同じ穴のムジナである。ソヴィエト共産主義幻想によって多くの人々が抹殺された。

 日本共産党はこの問題に関してスターリンの過ちとして他人事のように説明するのである。むしろ被害者であるかのように。実は彼らも同類。戦前ソ連に亡命した日本人共産党員は多く、国崎定洞はじめ、演出家の杉本良吉もスパイとして処刑された。彼らはこれをスターリンのせいにして、共産主義政府の欠陥とはみなしていない。ジェノサイドは今も国際法庭で裁かれる犯罪。何故あのような事が繰り返し行われるのか、共産主義者の行った大量殺戮をどう定義していくのか、又、スターリンの行った粛清や民族抹殺を狙った強制移住、政敵とみなされた民衆や軍人に対する容赦無い処刑、さらにウクライナでの農民餓死政策などもジェノサイドとして歴史的に再定義しなければならない。著者が本著で訴えているテーマである。彼は紛れもなくヒトラーと並ぶジェノサイド首謀者であり、犯罪者である。そのように叫んだところでいったい何が起きるのか。
 
 ソビエト崩壊後、スターリンの行為に関しては膨大な資料が公開され、その犠牲者の全貌が明らかになるかと思われたが、実際は現体制に都合の悪い情報は公開されていない。更に困難な状況もある。当時の報告書は犠牲になった逮捕者をNKVDの担当者が水増しし、自分の功績を過大にしようとした形跡があり、正確には分かっていない。しかし、1930年〜1953年に110万人〜120万人のソビエト国民が処刑され、150万人が強制移送で死に、強制収容所で160〜170万人が早死、これに意図して仕組まれたウクライナ大飢饉やポーランド人バルト3国民、集団化に抵抗した農民、処刑された少数民族の抵抗者300万人〜500万人、更に反革命のかどで銃殺されたボリシェヴィキ、クラーク、僧侶など膨大な死者の全てにスターリンが主人公であった。社会集団と政治集団の抹殺をジェノサイドとしない1948年の国際法は戦勝国ソ連が国連条約に影響を行使した結果であり、このことは修正されるべきであると著者は主張している。農業集団化で流された血以来、彼の工業化や農業集団化の全国計画の失敗は政治的粛清と同様に憎悪と復讐心をもってソビエト住民全集団のせいにされた。数十万人のクラークのレッテルを貼られた数十万人が銃殺された。敵性民族の反乱を抑える為の攻撃はポーランド将校への大量処刑、カチンの森事件に象徴される。チェチェン、イングーシ、クリミアタタール、朝鮮人も敵性民族として処分された。スターリンとソヴィエト政権は政敵集団を発明して彼らを裁き、訊問し、拷問のうえ処刑した。スターリンの地位を脅かす古参ボリシェヴィキ、共産党エリート、将校団、ノーメンクラトウラとその友人、家族、同僚を無実の犠牲者を構わずに処刑していった。それらは迫り来る戦争に備えるという大義名分の元に実行されたのである。この著者の告発は今更という感もあるが、歴史は繰り返されてきた。スターリンとヒトラーは全く同質であり、国家犯罪であることを改めて告発したのである。未だにスターリンを賞賛するグループが存在し、今もシリアで行われていることは内戦の最も最悪の形態でありジェノサイドになりつつあるのに、これをロシアが容認しようとしていることに国際社会はどのように行動するのだろうか。スターリンの犯罪に目をつぶった国連の限界を見せつけられる思いである。

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by katoujun2549 | 2013-04-24 00:44 | 書評 | Comments(0)