TPPをどう考えるか;国民不在の議論は反対だ

 TPPに関してあなたはどう考えますか?と聞かれたら、11月のAPECで決めねばならないということであるならば、総理大臣の責任と権限で判断し、決めてもらいたい。議論の時間が無いということは民主党の失政かとも思うが、議論で結論が出ることではなく、決断の問題なのだと思う。決まってしまえば忘れ易い日本人の悪い点を反省すべき時でもある。議論は続く。これは長期戦なのである。我が国は世界中で製造業を展開するようになった今日、開かれた貿易立国としての道を既に歩んでいる。

 日本は閉鎖的になり易い国であるから、出来るだけ参加の方向で進めるべきだ。損得は見えてこないが、選択すべきこと。そもそも環太平洋の貿易協定で日本とアメリカが参加することによる影響力は計り知れない。損得はその条件や、不利益にならないようどのような交渉努力をするかにかかっている。経済産業省や外務省がどれだけ事前の調整や情報収集をしているかにかかっている。始めから得する話など、大したものでは無い。日本のような大きな経済規模を持つ国は利害関係も複雑であり、得する話だけを選択出来る訳ではない。問題はリスクは有ってもそれを最小限にするかどうかが交渉である。だから、交渉に当たってはアメリカに対する日本の国益を守れるよう問題の農業や医療などに条件を主張することだ。無条件降伏は許されない。

 TPPは20分野以上に関税や非関税障壁の撤廃が協定される。そこには医療も含まれる。から、混合診療、外国人医師、外資系企業の病院経営などの解禁を求める声が出てくるだろうが、これについては以前から議論が進んでいる。さらに、医薬品は今は関税が無い。特に、治験を外す訳にはいかないから、これは残るだろう。美容整形などは別で、基本的に、医療は輸出出来ない公共財だ。自分は常々、中国にあまりにも希望を賭けた我が国の産業界には疑問を持って来た。日本は環太平洋と東南アジア、インド、さらには中東という地政学的な戦略を持つべきだ。中国にはその軍事的脅威を抑える為に、貿易や製造業の連携とパイプを持っている事が大事だ。長期的には中国への経済進出は一時的な利益はあっても将来的にはそれほどでもなくなると思う。中国が技術力を高めて日本を制圧しようとする日が近いうちに来るに違いない。中国という国には公平とか、義を尊重する機能は無い。あの国の本質はGreed(どん欲)である。

 外交的にはアメリカは最も重要な同盟国だ。多くの犠牲を出したアメリカとの戦争を忘れてはならない。その後の経済復興と冷戦で果したアメリカの役割、そして今もアメリカが最大の同盟国であるという現実を踏まえれば、アメリカと日本が手を携えて環大平洋諸国の経済を支える方向は見失ってはならないと考える。日本は北朝鮮と中国、そしてロシアの脅威に直面した国である。しかし、貿易協定と軍事は関係が深いが、一旦これは分けて考えるべきである。この貿易協定が、他の分野に及ぶ影響を最小限にすべきであると思う。

 TPPの議論で協議に参加するとこうなるという予測、予言がやたらと多い。開国、不平等条約といった歴史認識の誤った概念的な定義、国内農業の壊滅、輸出製造業の壊滅など危機感をマスコミは煽る。そして国民不在の議論が横行する。ひどいのはアメリカとオバマの陰謀という批判。自国の利益を大きくする為に務めるのは一国の指導者のあるべき姿だ。アメリカでもTPPによって本当に雇用が拡大したり、貿易赤字が解消出来るとは思っていない。アメリカの最大の輸出品は兵器であり、世界に緊張が続く事だ。アメリカの農産物は輸出が拡大しても雇用の拡大にはならない。農業人口は2%しかないからだ。

 日本を世界に開かれた国にするか、そうではなく、保護主義を何処まで守るかという議論はそもそも、結論が出ない話だ。島国日本は地勢的に外には開かれていない。今日、繁栄を謳歌している国、例えば、韓国やシンガポール、オーストラリアなどが外に開かれていることを見ると、未来はそうした方向にある事は明らかである。日本はそもそも、保護主義的になり易い。外に向って開いて行く努力は常に続け、内容も見直さなければならない事も宿命である。

 国民は豊かな水産資源、四季折々の自然に育まれた農業の恵みを受けている。安全な都市、アジアでは断突に進んだ社会保障がある。しかし、今日、デフレ経済の中で、企業は雇用を拡大出来ず、若者は厳しい生き残り競争を強いられ、未来が明るくない。毎年3万人を越える自殺者がこの10年続いている。累積すると30万人ではないか。アメリカに頼った国防は、中国の脅威にさらされている。しかし、沖縄に偏在した米軍基地、竹島や尖閣諸島、北方領土などで全く外交の力が発揮できない。日本の強みであった製造業は円高による海外移転と空洞化、韓国や中国の競争に曝され、経営者は苦しい局面に立たされている。そこで、にわかに出て来たのがTPP。国民は利用するだけ利用する。ところが、アメリカのオバマ政権が雇用対策の為に、貿易のあり方に注目し、参加する事になった為に急に状況が変わった。アメリカはアフガニスタンから撤退し、軍需産業は成長が見込めない。何とか雇用を確保しなければ政権が維持出来ない。国内製造業を復活させねばならず、手段を選ばない行動に出ている。そこで、アジアで最も大きな市場である日本をターゲットにおTPPへの参加を促して来たのである。

 菅直人というポピュリスト政治家は、自分の不安定な政権を維持する為に、常にスタンドプレーを演じて来た。そして、墓穴も掘って来た。昨年の参議院選挙での消費税、原発事故での誤ったリーダシップ、脱原発宣言、東日本大震災での連立提言など、全て政権に1年以上しがみつく手段だった。このTPPもそうした自分のいい加減さをカモフラージュする為に昨年にわかに言い出した事である。開国的な施策としては誠に結構なことのように見えたである。しかし、その裏には実に我が国の将来を方向づける内容とリスクがあったことを菅直人は一言も言わなかった。

 中野剛志氏のTPP亡国論を読んでも、釈然としない。彼の論調は、今のデフレが解決しないうちは、保護主義と規制を強めて国内産業を保護すべきであるとする。さらには、公共工事などのマクロ政策を実行することとなる。それでは貿易はどうあろうか。アメリカの陰謀にかからぬよう、中国の成長を頼りに輸出と、これまで通りのアメリカ市場を自動車と家電で席巻して行こうというのであるならばこれも未来が無い。彼の反対論は規制による国内利権の保護につながり、公共投資など、彼のビジョンにはあまり未来を感じないのだ。

「デフレの正体(藻谷浩介著)」を読むと、我が国のデフレ体質はそう簡単には治らない。そもそも、その根本原因が人口減、農業も含め、若年層の活用と所得バランスの改善、女性や高齢者の活用、需給ギャップの解消を目指す消費の拡大などの多様な施策が必要となる。そして、公共投資などのマクロ政策は効果が薄いとしている。対デフレ政策、特に金融政策による円高対策、さらには浜矩子のいう1ドル50円の経済構造に日本を変革すること等の新しいビジョンを語ってもらいたい。

 しゃくに障るのは、これで一番得するのは、経済産業省ではないかということだ。かれらは全く高みの見物である。TPP対策として多くの補助金、支援事業、参加各国との調整で彼等は大忙しだ。安い輸入品に追いつめられた国内産業の経営者は競って通産官僚の指導を仰ぐだろう。省としてその重要性が増し、盤石の基盤ができることになる。今の民主党ではとにかく消費税では財務省、さらには経済産業省の言いなりになる。反対を押し切った農水省には借りができ、年金では厚生労働省に何も言えなくなる。民主党は政治主導といいながら、官僚には10戦10敗の完敗だ。

 中野剛志氏は経済産業省から今は出て、京大准教授だから、自由にものが言えるという。経済産業省から睨まれないのかと思うが、彼にしてみれば、自分は論客として反対論に回すと手強い人物という評判が立てばいい。彼のような人物は今度、経済産業省に戻れば、強力な政策推進論で、他省庁に干渉してくれる。そう思わせるならば彼の道は前途洋々。

 今回のTPP参加を前に、マスコミを巻き込んで様々な恫喝が行なわれている。彼の亡国論もその一つだ。農協が反対すれば枝野発言だが、「兼業農家の農業を保護するのはいいが、農家の家族が勤めているメーカー、工場が無くなったらどうするのか、メーカーの製品が海外で売れているから、皆さんの生活が成り立っている。石油や資源が買えなくなったら、トラクターもコンバインも動かない。」農業従事者のどれくらいの家族が工場に務めているのか。農具が無ければ畑も田んぼも耕せないのか。農業を馬鹿にしている。

 今、自動車の部品の輸入には4%の関税がかけられている。韓国はこれが0になると日本の自動車メーカーはかなわないという。ウォン安がアメリカで現代の自動車売れている原因であることは少しも言わない。コョンニャクには17倍、米には7倍の関税がかけられている。TPPに入ればそれぞれ17分の1、7分の1、小麦は半値になるのだろうか。実際には輸送コスト、加工費などが商品化、加工の度合いが高い程、影響は少ない。360円のハンバーガーだけでせいぜい30円〜40円の値下がりにしかならない。そんなものはセールスキャンペーンで100円バーガーだってある。何も大していい事無い。生鮮食料品が全て輸入品になることはない。食品の安全度とか、遺伝子組み換え品かとか、表示によっても購買者の選択は変わる。しかし、加工品はどうか、生産者は原料として安い方を選ぶ。

 TPPではGDPが上がるという経済産業省の資産だが、恐らく損得差し引くと大して上がらないだろう。アメリカの消費はしばらく上がらない。農業はさらに荒廃する。赤字だが、こちこちと頑張っている零細農業は崩壊する。いくら働きが悪いからと言って、脳魚は、ささやかな土地を耕し、米を作り、日本人の基盤を支えて来た。人間の体で言えば、小指のようなもので、大事な体の一部だ。経済産業省はまるで、切り捨ててもいいと言わんかのような感覚だ。しかし、どれも切れば血が出て痛みを伴い、五体満足ではなくなる。それでいいのだろうか。

 貿易に関して、最終的に鍵を握っているのは国民である。国民不在の議論だけは止めてもらいたい。露骨に国益を損なう商品を買わないよう情報提供するならば国民はそれに答える良識がある筈だし、そのことが可能になるような政治を行うべきだ。怒濤のように外国製品が流れ込んで来たとき、これを買うのは消費者である。消費者に受け入れられた優れたものを買う事を政策的に押さえ込む事は出来ない。政府の介入が、日本の産業をどれだけ潤したかを証明してもらいたい。
 確かに、初期の自動車産業は関税や進出の際、営業情報提供、技術情報など、当時の通産省は役割を果しただろう。しかし、民間企業の血のにじむ努力、現地生産への工場開設など全て民間努力の賜物ではないか。今後のTPPの交渉内容など、国民の判断を仰げるような情報公開と、政治方針の立案を期待したい。それが出来るかどうか、民主党政権の評価を決める総選挙が必要であるとは思うが。

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by katoujun2549 | 2011-11-03 14:46 | 国際政治 | Comments(0)