TPP論争

TPPに攘夷論はいらない。民主党の国際感覚が江戸幕府なみであることは認めよう。でも、反対派がこれを幕末の不平等条約に例え、賛成派が開国になぞらえルるのは単なる政治家のレトリックで問題の本質が分らなくなる。

 最近のTPP問題にはマスコミ、産業界、民主党政権、特に前原など異常なコールである。こうした時こそ危険が潜んでいる。あれだけ農業従者が嫌がっていることであれば、充分な説明と、これまでの農業政策の過ちをきちんと説明して、被害をどのように最小限とするか提案出来なければいけない。ところが、彼等が、交渉もする前から不平等条約とか攘夷論のような論点にすり替え、政治としては単なるゴリ押しになってしまいそうな勢いだ。推進派も何が日本の開国だ。もうとっくに開国しているのに。日本は自動車産業や家電メーカーだけの国ではない。しかし、攘夷的な原則論に火を注ぐような論点もまた危険だ。TPPを進める政権党の心もとない感じ、デフレの出口が見えない事、アメリカの不況、中国の台頭、韓国との競争さらには震災復興と国庫の逼迫、少子化、消費の低迷などをこのTPPにからめて論じるのはまるで、夫婦喧嘩で茶碗や靴が飛び交っている様相だ。マスコミはきちんとした議論や提案が出来ないのか。

 TPPはTrans-Pacific Partnership、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement
だから、環太平洋の条約であり、アメリカが一番大きな影響力を持つのは当然だろう。
これはアメリカの陰謀だとか、分けの分からんことを言う人がいる。当然アメリカは色々考えている。しかし、これは、2006年にAPEC参加国であるニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国が発効させた、貿易自由化を目指す経済的枠組み。工業製品や農産品、金融サービスなどをはじめとする、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に100%撤廃しようというもの。2015年をめどに関税全廃を実現するべく協議が行われている。この協議に加わる事がそんなに問題か。

 TPP参加が今後の日本の将来を決める重要な問題であることは論をまたない。このような国際案件は原理主義では全く解決でできない。むしろ方向を誤らせるだろう。一かゼロかという議論をする段階では既に無くなっている。しかし、反対論者は問題を正しく掴んでいるのか。危惧が反対の原点か、これは単なる攘夷主義とか、原理主義ではないか。とにかく、国民の懸念を煽るだけの論が多すぎる。自分も手を挙げてTPPが良いとは思えない。想定外のことはこれから続々と起きるだろうが、想定出来ることは何とか交渉の条件や対策を図るならば恐れるには足らない。世の中で大事な事は想定外の事に素早く対応する危機管理力ではないか。国益にかなわなければ参加しなければ良い。
完璧に日本にだけ有利な国際交渉などありえない。日本人はビジョンとか戦略は苦手だが、対策は上手な国民だ。勿論、野田政権が TPP交渉を国民の誰もが納得出来るとは思えない。しかし、実際に行なうのは彼等というより官僚達である。他に出来る人はいない。

 TPPが日本の国際取引の無条件降伏のように言う事は杞憂、交渉や条件次第だろう。それはまかり間違ってそうなることがあって、避ける事ができないならば本当に最悪である。目に見える危険は避けなければならない。今TPP交渉をするのは無条件にならないためではないのか。20以上の分野全てが無条件ではない。医療、弁護士、教育など専門職種を要する分野など、同等ではない。
TPPが農業問題ではないというのは分るが、最も影響を受けるのが農業だから問題なのだ。これにはもっと真面目な議論が欲しい。農業者は被害者意識だけはなく、農業を保護主義から脱却してどう改善するか、対応を提案してもらいたい。これまで、日本は石炭産業とかアルミ産業など切り捨てて来た。農業は切り捨てる訳にはいかない。原子力だってそうだ。数十年間、日本国民が自らの手で、一向に解決せず、損失補償給付金とか、減反、誰も食べない穀物に補助金が浪費されている。この問題の圧力団体、農協は全く消費者を無視している。農協を離脱した農家に成功例が出ている。そもそも既に農協は集票力も無い。大体、日本人は米を昔のようには食べていない。アメリカの米はうまいものもあるが、良質の米を造る技術のイニシアチブを日本は取ることができる筈。特に、中国の富裕層は日本の米を競って買う。こうした米を売っているのは農協を通さない起業的農家だ。80%の農家は赤字だが、実際は自己消費している。出荷しているのは補助金で膨らませた売値のもの。高い米を我々は食べている。競争原理を欠いた市場は、生産者を育てない。66歳以上の高齢者が農業従事者であるから対応出来ないという声がある。しかし、補助金で食べている未来の無い産業に若者は魅力を感じない事が分らないのだろうか。
  TPPが我が国の閉塞感を打開出来るかどうかは今後の構造改革次第である。でも、日本はこれまで多くの国際的な条約や公約を放置して来た。鳩山の普天間や地球温暖化対策の炭酸ガス排出規制もそうだ。
 日本人は明治維新と敗戦時以外は自ら自分の問題を解決しなかった。これは過去の歴史が証明している。自己改革能力は全くと言っていい程ない。性懲りの無い国民だ。これまでも、日本はアメリカに何も言えない情けない国だ。それは実は東西冷戦の結果アメリカに保護されて来たからだ。日本製品はどんどんアメリカで売られて来た。多分こうした事態に手をいれてこなかったアメリカの政策は昭和天皇の崩御で終わっている。日米の自動車や繊維の貿易摩擦、オレンジ交渉がどうだったか思い出してもらいたい。そのことに気づかず、この20年間何故バブル崩壊から停滞の20年を過ごして来たか反省したのだろうか。唯一上昇したのは小泉がアメリカにすり寄った時だけではないか。アメリカという日本に取って最も重要な国が望んでいることを真剣に検討していない。それは反対する事で自説に権威づけしたり、それで収入を得ている文化人がいるからだ。
 
 アメリカと日本のGDP比較で大量の生産物がなだれ込む危機感をあおることは正しくない。これは消費者が決める事、GDPは国内消費に加え貿易収支など産業指標の合成だから、単なる分量やシェアだけでは語れない。アメリカが大きくなるのは当たり前。アメリカはドルを増刷し、価値を下げて対応できる世界唯一の国。でもこれはリーマンショックで終わりだ。TPP反対論者は単に日本の小さなことを上げて国民を脅している。こうした差を乗り越え,今日まで日本は国際競争を戦って来た。韓国のTPKと比較する反対論があるが、対米依存度は日本の比ではないし、韓国が中国や北朝鮮の脅威にさらされている国だということを無視している。韓国は戦略上世界で日本のシェアに食い込む事ことばかりを考えている。シンガポール、マレーシアと韓国の関係を語らずに、韓国FTAを例に挙げるのは乱暴ではないか。
 
 医療が自由化されることはあり得ない。しかし、日本の医療は海外から閉ざされた領域だ。インドネシアから看護師を数千人も入れておきながら、語学教育の訓練もせぬまま、看護師の資格試験を受けさせて、有能な看護師も使い捨てにして来た。日本は医薬品でも国内の治験が効率が悪いから外され、抗がん剤を始め、新薬の使いにくい国だ。これは医療が国際的にも共通の技術分野であるのに、国の指導で閉ざしている結果、割りを食っているのは国民。日本の医療水準は今やレベルはタイ並みという事が分っていない。この際あらゆる分野で棚卸ししてみたらいい。
 TPPで江戸幕府の不平等条約締結を例にするのは全くの間違いではないか。それなら、歴史観として、明治維新も開国も敗戦の原因だ。ここでそんな歴史観を持ち出すのは全くのアナクロニズムか詭弁。そんな原理主義よりも今の閉塞した日本をどう世界に伍して行ける国、新たな富国強兵策を出してほしい。菅政権が尖閣列島でやったことは例にならない。論外だ。あれは特に、情報公開しなかった事、司法の判断でごまかした事など。行政ミスである。そんなことをTPPに持ち出すのは全く反対の為の反対という感じだ。
 日本が貿易で海外から評判が悪いのは関税よりも、非関税障壁だ。規制緩和がなされていない。例えば、建材など、海外の良質な製品が,様々なルールで使えないようになっている。市場で勝負していない。日本の自給率というのは殆どが国内の食料として自給しているものばかりで、先進国ではこんな事とはあり得ない。生産額ベースで70%というのはそんなに低い数字ではないが、イギリスではマトンやチーズ、ビールなど、フランスはワインなど海外に輸出し、それも自給率の分子分母には入っている。だいたい、カロリーベースというのはアメリカのオレンジ輸入を防衛する為に日本だけが考え出した数字で世界では全く採用されていない。日本人はもう米に頼らず、スパゲッティや牛肉、中華材料のピータンとか、韓国キムチも食べている。ウドンの90%はオーストラリア産で、日本の麦は補助金の乗った家畜の餌だ。このために日本の畜産コストが上がっている。日本の農産物はリンゴ、柿、苺など世界で賞賛されているものがあるが、少しも輸出されていない。山形県の立派なサクランボは一部の人間のものだが、同じものが3分の一の値段でカナダやアメリカで売られている。消費者はそちらが欲しい。ワインやチーズ、ハムなど高付加価値のものになっていない。むしろ入超である事が問題なのではないか。
 
 今の政権批判は常にあること。では自民党なら出来るのかといえば全くだめ。野党としてのキチントした批判も議論もできない。ただ煽るだけ。問題はドンドン放置され、意思決定の早い韓国や中国に先を越されつつあることだ。これは本質的な政権党の能力問題であって、TPPとは別問題だ。普天間や尖閣列島、竹島、北方領土も国際的な世論を,味方に付けなければ解決出来ない。国際的な日本の地位は国防にもつながるから関連するだろうが、ここはTPPに限って議論しよう。現政権が国際交渉能力に欠けていることは分る。でも、問題は拡散させずに領域の広いテーマであるTPPに絞ってもらいたい。
 むしろ、一挙手一頭息をあげつらうマスコミや知識人の無責任な言動が国益に反していることもある。そうした風潮が沖縄の普天間問題も難しくし、沖縄の戦略重要性を沖縄県知事の立場を不必要に強めている。交渉もせずに、始めから方法について語るのは違和感がある。そんな事行っていたら外国との交渉は誰も出来なくなる。多分、野党は民主党がTPPを放置したら、早速バスに乗り遅れたと攻撃するだけ。無責任な野党である。TPPがアメリカの雇用政策の一環であり、経済不振の打開策だと言うが、それは当たり前の事だ。では日本は何をしているのだ。

 アメリカの経済不振の原因が貿易の不均衡であるなんてアメリカは実は思っていない。本当は分っているからアフガンから撤退しはじめ、イスラエルとパレスチナの衝突を避ける為にハマスとの妥協を静観している。貿易不均衡は原因の一つではある。どんな国だって自国の商品を買ってもらい、貿易収支を改善したいに決まっている。アメリカの国際収支悪化や国家財政の逼迫はひとえにイラクとアフガニスタンでの戦争のせいである。軍事費では100兆円もの国庫負担を積み重ねてきても、儲かるのは関連産業だけ、それによって国内経済に循環するものは殆ど無い。この戦争による負の資産はは400兆円だとスティグリッツは言っている。そこではハリバートンや兵器産業だけが儲かる構造である。アメリカの雇用悪化は製造業の不振、特に、自動車産業の売れ行き不振がどれだけ雇用悪化させたかを見れば一目瞭然だろう。個人消費につながる工業製品はかつての栄光を失い、アメリカが発明した現代商品は皆輸入されている。あの国ではテレビもカメラも、家電製品、衣服も皆輸入で国内メーカは消えた。雇用を回復させるものは消費物資関連産業のイノベーションしか無いのである。デフレ対策に金融政策が通用しなくなって久しい。何故、これが効かないのか。藻谷氏の「デフレの正体」を読んだ方が分かり易いし、今更、ケインズを持ち出しても、今の解決にはならない。


[PR]
by katoujun2549 | 2011-10-26 23:12 | 国際政治 | Comments(0)