原発のウソ

「原発のウソ (扶桑社新書)、小出祐章著」

 原発を告発する出版物が増えている。著者の小出裕章氏は京大の原子炉実験所の助教として原発の危険性を常に訴えて来た。彼の専門は放射線計量、原子力に携わりつつ、その危険性を訴え、原発の推進に批判的な立場を取るということは、いわゆる原子力村の住民としては疎外されたのではないだろうか。しかし、原発周辺住民、さらに地域の人びとにとっては、こうした内部の人間の率直な意見が必要になる。我が国は原発を危険な施設であり、大きなリスクがあることを無視してきた。その結果が、今日の事故につながった。また、他の原発も何度かトラブルや事故があり、実情が隠蔽されて来た。

 安全神話にはじまり、原発や放射能の問題に関してはこれまで不透明、さらには噓が多かった。特に、3月の福島原発事故に至っては政府も、枝野官房長官の大本営発表的会見、原子力保安院、東京電力は情報の隠蔽、曖昧な言い回しや詭弁、誤った報告、ご都合主義的な国民を無視した発表が目立った。本書は原発推進側の噓や、勝手な解釈をひととおり暴いてみせている。福島原発で一体何が起きたのか。地震と津波が想定外という東電のいい訳に対して、人為的なミスー設計〜事故対応にいたる実態が説明されている。放射線被曝の危険性、特に内部被曝の恐ろしさ、また、これまで語られて来た火力発電に対する原発の優位性や経済性について容赦ない批判を展開している。こうした批判は、裁判でいえば一方的な検事の主張のようなものである。事故を起こした側からは、今は反論しにくいとことを叩きのめすように論陣が張られている。

 電力会社の噓や詭弁に関しては、「原発の闇を暴く(広瀬隆・明石昇二郎著)集英社新書」が原子力村ー原子力マフィアの実態を、また、放射線被曝の恐怖に関しては「内部被曝の脅威肥田舜太郎・鎌仲ひとみ著(ちくま新書)」が啓発書としては説得力がある。後者は東日本大震災の前に出版され、人類の原子力利用の歴史において、とくに第二次大戦後、内部被ばくによる健康被害が軽視され、ときには意図的に隠蔽されてきた事実を告発している。

 「原発のウソ」はこうした原発告発本のダイジェストといってもいいだろう。原子力研究者による分かり易い解説本という意味に於いては成功している。総論としては、批判の論調が一方的な感じも拭えない。例えば、電力会社の送電コストは、ひと言では言い尽くせない複雑さが特徴だ。市場主義ではあり得ない僻地にまで送電義務がある事も語られなければならない。地域別に九州や四国など、原発依存度の高い地位域は生活用のみならず、工業用も原発依存度型か40%以上と高く、中部地方は原発依存度が低い。関西以西と関東の発電サイクルの違いから電気の融通ができず、トータルな電力使用量がピーク時でも原発無しでやって行けるかどうかの検証はなされていない。被曝による被害においても、やや過剰な被害設定が見られる。実際はこれも分らないことが多いのである。とはいえ、原発が55も、しかも、津波や地震など甘い想定、さらに人為ミスも重なった場合のリスク対応がお粗末な実態をさらけ出されると、もう原発はこりごりという印象になる。

 しかし、今なお世界のすう勢は原発を推進しており、廃止する国はドイツ、イタリアなどだが、これらも、原発で作った電力までは別に拒否していない。日本の場合、周囲の国からの供給は無いから、原発を廃止するとやはり、電力不足から来る産業リスクは高くなる。福島原発の冷温停止が終わらない今は、完全な安全は無いのだから、放射線被曝の恐怖や今後の事故の危険性を訴えた方が論理上批判的な立場の方が楽だろう。沈静化に向いつつある今、必要なことは安全性向上や、原状回復がきちんと行なわれ、稼働再開の可能性があるかどうかである。これまでの杜撰な体制が何処まで改善されたかを見守らなければならない。喉元過ぎれば熱さ忘れる国民性を彼等はじっと観察しながら、体制の復活を狙っている集団があるに違いない。

 戦後、少なくとも10年間、我が国は電力不足に悩み、自分が子供の頃は突然の停電は頻繁にあり、家庭にロウソクは必需品だった。高度成長期以降は電力は原発の貢献を否定することはできない。地域によって差があるが、豊富に供給されるようになった、ところが、原発の建設、廃棄物処理による高コストを耐えなければならなくなった。そのせいでアルミ産業などは完全に消滅した。日本の電力料金は先進国では一番高い。自然再生エネルギーへの転換は好ましいが時間がかかる。原発も急に止めるわけにはいかない。産業用ロボットやIT産業は電力依存度が高い。電力不足がどれだけ産業の空洞化や医療などのリスクを高めるかといった検証も必要だろう。脱原発を語るのは簡単だが実行は難しい。原発のウソにウソが無いのか、公平な立場からのエネルギー論が待たれるところである。

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by katoujun2549 | 2011-09-27 16:23 | 書評 | Comments(0)