精神科医は信用できるか 和田秀樹著 祥伝社新書

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精神病になった患者は苦しむが、家族、職場の同僚なども困るのである。精神病については誤解される事が多い。和田秀樹の本は受験についてもそうだが、親切な入門書である。精神病入門。刺激的な本の題の割に内容はオーソドックスな精神病治療の考え方が書かれている。和田秀樹氏は受験コンサルタントとして多くの著書がある。 

 彼は精神医でもある。精神医療の現実を本音で語ってくれた。彼は精神病患者が社会的に偏見と差別に会っている事に心を痛めている。精神病のうち、300万人〜400万人いるといわれる鬱病が、治療可能であり、セロトニン仮説という意味で、原因も分るようになり、誰でもかかりうる病気である事を訴えている。これまで、精神科、精神神経科、神経科、神経内科、心療内科など、どう違うかも分かり易く説明されている。

 今精神医が治療の根拠としている判断基準マニュアルがある。アメリカで使われているDSM4とWHO(世界保険機構)で承認されたICD10である。診断名は時代によって、また、基準がダブルだからシロオトには良くわからなくなる。和田氏は朝青龍、安倍晋太郎、雅子妃殿下など分かり易い実例で説明してくれている。問題は病名ではなく、症状に応じた適切な治療法である。

 今や毎年の自殺者が3万人を越える。これは平成10年にそれまでの1.5万人〜2万人から3万人に跳ねあがり、一度もこれを下回っていない。これは警察庁が変死として確認した数で、未遂から死に至った人はもっとおり、毎年4万人とも言われる。自殺者の6〜9割が鬱病で、そのうち治療した人は1割から2割の間にすぎない。全国の患者は今や323万人と言われる。今や精神病は癌(152万人)糖尿病(237万人)脳卒中、心筋梗塞とならぶ国民5大疾病なのである。勿論他に統合失調症、解離性障害、適応障害、PTSD、ADHDなど心の病いに悩む人がいかに多いかだ。  

 バブル崩壊と経済環境の変化が大きな影響だったかも分る。特に中高年の自殺が増えたことは雇用条件がからんでいる。年を取る程精神は柔軟性を失う。自殺者が実は社会的な影響が強いこと、さらには政治や家庭、教育などにもかかわっていることがわかる。PTSDは事故や災害、ADHDは子供の発育や教育にも関係があり、昔よりも増えている。患者の置かれている環境に医療は関心が無い。それでは良い治療は出来ない。

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 精神病にかかった患者を支えるのは家族だ。患者が自覚して病院に一人で行く事は無いのではないか。学校や職場から家族に異常の連絡があり、治療が必要である事に気づく。心の病に対応する近道にかかわらず、なかなか診療に踏み切れない人が多い。治療を始めることができれば先は成功であり、投薬ガ始まれば初期の対応は出来た事になる。しかし、完治に至る事は結構難しい。

 医師の治療に至る家族や、本人の自覚が出来ない事が多い。家族は入院させようとすることもあるが、家族の事情で入院できる訳でもない。入院は医師の判断だし、現在は在宅治療が基本である。自分は病気ではない、周囲が問題だと思いこむことがある。治療に行かせる為に家族を巻き込んで大騒動である。病院に行く気力がないとか、抵抗することもある。我が国で精神病が5大疾病であるという指摘を医療政策上指摘するのは官僚の常道であるが、どんな方策を取るか、患者や,その家族は何が出来るか、何をしなければならないかに関してはまことに無策である。この対応策は実は医療教育から、現実の医師の研修、医薬品の保険対応まで含むことである。

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 セロトニン拮抗薬(SSRI)が鬱病や統合失調症の治療に大きな前進をもたらした。しかし、その副作用に関しても情報が必要である。向精神薬に関する基本的な、また、近年の新しい情報を分かり易く説明してくれる。

 精神病に関する我が国の大学教育、医療制度の問題点は医療政策全体につながる課題である。医科大学の精神病に関する取り組みは臨床医の育成という課題からかけ離れている。医学部では生物学的精神医学の観点からしか人材を育成しない。大学ではカウンセリングも教えないし、さらには、医学部を出て国家試験を通れば、何科にもなれるという自由選択制度、さらに専門領域が細分化していくのにその専門医の育成や資格に関しては何も制度的な信頼感ある仕組みが無い。これでは患者は誰に診てもらえば自分の病気が治せるのかは分らない。

 精神病になった場合、一般論でどんな薬があるか、臨床心理士やカウンセラーと医師の関係なども知識として必要だろう。こうした医療知識に関して、和田秀樹氏はタブーは無いのだと、現代の精神医学の現状を分かり易く教えてくれる。患者も、家族も自分の病状に対してとにかく適切な治療がなされれば何処でも良いのだ。良い医師に辿り着くのが本当に大変な分野である。いきなり病院に飛び込むより、臨床心理士やカウンセラーを通じて適当な医療窓口を紹介してもらうことが近道である。

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by katoujun2549 | 2011-07-08 12:05 | 書評 | Comments(0)