医療のからくり 和田秀樹著 文春文庫

医療のからくり 和田秀樹著 文春文庫 

 受験コンサルタントで有名な和田秀樹氏の対談集である。2005年に出版され、日進月歩の医療の世界ではもう古い話だと思ったが、読んでみると、今日でもあてはまる内容。それほど社会も医療も進歩していない事が分る。和田秀樹氏は東大理3から医学部に進み、精神科医でもある。浴風会病院に勤務し、高齢者の精神病や病気に取り組んで来た。高齢者特有の健康管理、精神衛生に詳しい。日本の医療では子供は小児科、大人は内科しかない。しかし、大人と言っても20歳の若者から80歳の老人に至る体の内容は個人差もあり、極めて複雑で、これを一つの制度で扱う事に無理がある。2年前高齢者医療制度が発足した。しかし、医療的には何も変わっていない。相変わらずEBMによって保険制度による縛りが続き、医師の創造性は減殺されている。彼は慶応大学の近藤医師との対談で、大学病院の実態を明らかにする。新潟大学の安保徹教授とは高齢者特有の体の状態から、高血圧や血糖値の基準の限界を語り、諏訪中央病院の鎌田實氏とは地域医療によって医療効果が上がる実績を語らせている。全て、今日日本の医療が抱えている問題であるが、いまだに解決されていない事が分る。これらは厚労省の現場を無視して行なわれる政策に起因している。かつて、日本がアメリカと戦った戦略は半年後に崩壊し、その後は100戦100敗であったことの繰り返しである。止める勇気がない。それでも自分達の非を認めようとしない、割を食うのが国民という点でも同様である。日本の医療はフリーアクセス、低料金、そして低レベルである。三拍子揃うことは石油バブルに湧くサウジアラビア以外には医療ではあり得ない。
 高齢者医療の場合、コレステロール値、血圧、血糖値などが若い層よりやや高めであることがむしろ、常態であるという。また、肉も一日80gくらいは摂取した方が頭の老化対策にも良い。和田秀樹氏は精神科医として浴風会病院に勤務していた。日本は高齢者を診断する上での学問的データなど臨床の基礎ができていない。高齢者は特に同一年齢でも健康状態の格差が激しい。平均値という意味があまり無いのです。高血圧でも180とかになると流石に、様々な障害の原因になるが、正常値の上限を越えても、境界値にそれほどの意味が無い。150で平気な人もいれば、130でも具合の悪い人がいるという。高齢者の生存曲線において、これまでの基準は全くあてはまらず、また、高血圧群平均183〜93に悪い結果があっただけだったと言う。これも今は降圧剤で改善されるから、高齢者の多町の高血圧は問題が無い。
 医療費の社会負担の急増が懸念される。2013年には人口の25%が65歳以上で外来の45%、入院患者の68%が65歳以上という予測だ。これを財政的に絞ると、医療の質が落ちたり、医師の待遇、病院のモラル低下につながる。医療費は効率化、先端技術によって手術時間や入院期間を短縮したり、薬の重複を避け、不要な治療を避けるなどの対策も組み合わせる事が無ければ効果が上がらない。病院の経営の合理化だけではなく、医師のレベルを上げることが伴わなければ決してコストは下がらない。医師の質的向上には大学教育から仕組みを変えて行かなければならない。これまでの研究中心から臨床教育につながる仕組みにしていく。顕微鏡ばかり見ていた人が外科の教授になったり、かつての医大の仕組みは旧態依然であり、また、大学病院にも問題が山積みである。大学のブランドに患者は惑わされる。地方は大きな病院が少ないため、基幹病院が大学病院の事が多い。大学病院は教育と治療と両方の使命があるから、若い医師を訓練するときに誤りもある。医療を受ける方の立場に立っていない。研修医制度が医療崩壊の象徴になっているが、これから、大学の医局講座制が変わり、これまでより臨床医の能力が上がる可能性もある。日本の医療制度は国民皆保険制度、自由開業医制、自由標榜性と出来高払い、全国一律料金といった医療制度全体を改革しなければ、新しい時代には対応できない。

[PR]
by katoujun2549 | 2011-05-10 13:42 | 書評 | Comments(0)