ガンの練習帳新潮新書 東京大学病院、中川恵一著

「がんの練習帳」新潮新書
東京大学病院、放射線科准教授
中川恵一著
 今や、国民の半分がガンになり、3分の1がこれで死ぬ時代になった。その理由は単純だ。平均寿命が上がり、高齢者が増えたからである。細胞は老化するとがん化し易くなる。60歳を越えると特にガンに罹る確率が高くなり誰でも癌になる危険性はある。40年前は本人のみならず、周囲に秘密にしたもの。遺伝という風評もあった。ガンがDNAの異常ということが分ったのはそれほど古いことではない。
 ガンに罹って治療するとか、延命、そして死を迎える。誰もが経験することになったのである。我々はその準備がどこまであるだろうか。それに対する知識、心の準備である。日本人が好むのはピンピンコロリ、PPKであるという。これは痴呆でぼけたりしたくないということである。諸外国ではそうではない。アメリカ人はがんで死ぬのが良いと思う人が多い。小生の父親は心筋梗塞で82歳で亡くなったが、あまりにも突然のことで、家族の困惑は相当なものだった。ショックも大きく、これは亡くなった本人も同じである。PPKがいいと言うのは老人蔑視の作られた通念である。ところが、母は癌で亡くなった。亡くなる1年程前に、82歳で、もう余命の宣告をされてしまった。寂しかったが、親孝行もできたし、本人も覚悟が出来ていた。高齢でもあり、手術も抗がん剤治療も行なわなかった。癌による痛みはなく、静かに衰弱し、亡くなる1カ月前、孫も一緒に食事をして、その2日後に意識を失った。癌というと最後の苦痛とか転移した骨の痛みで苦しむと思っている人が多い。しかし、緩和ケアが抗がん剤以上に延命効果もあり、患者QOLを維持する事が出来る。
 今日の癌治療の最前線、先端治療の実態と限界、分子標的型抗がん剤、手術、放射線治療、末期がん患者の生活パターンの改善、延命治療の実際、高価なサプリメントによる統合医療やワクチン療法。様々な局面と治療がある。もし、あなたが癌になったらという想定で、練習するような気持でこれを読むように書かれている。
 聖路加病院の元理事長、日野原さんが、患者で一番困るのは、金に糸目を付けないから生き延びたい、何とかしろという患者だそうだ。金さえあれば生きられるかというと、そんな事はないからだ。命は全く神様次第である。国内未承認で海外では有効な抗がん剤で治ったというのもかなり眉唾だ。ガンはそんなに簡単なものではない。海外でも、抗がん剤の奏効率は高くない。しかも、莫大な価格で、エビデンスは6ヶ月から1年の延命である。先端的な薬であればあるほど、効き目のあるガンは限定される。海外でも治るようなガンは国内でも十分対応可能だろう。公平な、厳密な比較試験の話以外は出鱈目だと思った方がよい。
 この本で気になるのは、最終的には宗教や死生観の問題ではないかという。これは、医師に取っては禁句ではないか。それなら、全て坊さんにゆだねればいい。治療の方針も坊さんを介して決めればいいかといえば、そんなことはあり得ないし、医師からこの手の話は聞きたくない。医療の可能性を明るく語ってもらいたい。科学である医療の敗北を感じる。何としてでも延命するか、治そうという気持が無い医師に診てもらう気にはならない。こういうことを言う医師に東大出身が多いのはどういう訳であろうか。

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by katoujun2549 | 2011-05-08 23:56 | 書評 | Comments(0)