人気ブログランキング | 話題のタグを見る

武士道シックスティーン

武士道シックステーン

 学校の剣道部を舞台にした珍しい映画である。かつては市川雷蔵主演の三島由紀夫の作品「剣」とか、優れた映画があったが、最近はとんとお目にかかれない。剣道家が見ても耐えられるような作品づくりが欲しかった。これは剣道のシロオトにより作られた剣道のシロオトに見せる青春映画である。森田健作のテレビドラマもそうだったが、竹刀を握った事のある人は結構いるから技術はその程度で良いというのだろう。「剣」では同志社大学剣道部や慶応大の三田道場が使われ、リアルな感じがあったが、これは、お安く作られた感じだ。折角の青春テーマがもったいない。インターハイに出るということがどういう事かが全く分かっていない。野球の甲子園であればこんな描き方はしないはずである。

ストーリーを追いながらコメントしたい。 
 磯山香織と甲本早苗が中学時代に試合で対戦するところから映画は始まる。まるで初心者のような甲本に道場主の娘香織は見事な面で負けてしまう。宿敵として香織は早苗と同じ東松学園高校に進学。インターハイを目指す。甲本は親の離婚で西荻と名前が変わっている。香織が成海璃子、西荻役は北乃きい。この配役はなかなか爽やかで良い。剣道の稽古もそれなりに役作りの為に積んだ後が見えて感心した。もっとも、周囲のエキストラの方がうまい感じが変だったが。剣道の基本中の基本である面の打ち方がなっていないが、高級技の巻き上げ、倒した後の面一本などがある。中学生ならまだしも、インターハイに出る高校チームはもっと強いぞ。

 磯山は父親に育てられ、剣道を諦めた兄と三人暮らし。母親は亡くなっている。父親は子供に期待過剰で、勝つ事ばかりを要求し、香織は懸命に答えようとする。剣道漬けで読む本も五輪の書という程。香織は1年生でも、3年の先輩を凌ぐ力量があり、エースとしてインターハイ予選に出場する。早苗は根っからの楽天家で、皆に好かれるタイプ。好きな剣道は楽しくやりたいと思っており、何とか香織を自分のライフスタイルに引き込もうとする。剣道の試合も逃げてばかりである。ところが、突然無心になった技で常に勝つ。香織の剛に対し、早苗は柔である。この二人は対立しながら、インター杯予選にのぞむ。香織は決勝前に怪我をして、出場を断念、補欠の早苗に先鋒の役を譲る。その後、剣道から離れてしまう。一方早苗は香織の代役で出た試合に勝ち、認められてインターハイ出場を果す。香織は剣道が勝つだけに価値がある訳ではない事に気がつく。剣道家の父親もその事を反省し、香織は再び剣道部に復帰する。この鬼の父親の変心が一体どうなってんのか全く分からない。急にホトケになるのです。子供に剣道を続けさせたいから急に軟化したのだろうか。

 早苗は試合にこだわるあまり剣道が嫌いになるが、父親が母親と復縁し、名前も甲本と復活、福岡に転勤することになる。父親は好きなら貫けと激励する。すると、突然やる気になる。もともと、彼女は好きなようにやっているので、これも唐突。この一家がいいかげんな雰囲気に満ちている。ジョークか?
 早苗は転校、福岡から再びインターハイに挑戦し、東松学園高校剣道部に復帰、翌年のインターハイに再び出場し、会場で香織と早苗は再開、彼女を励ますところで映画は終わる。やる気になった早苗はインターハイ前に互いに励ましあい、丘の上で立ち会う。試合と勝負に前向きに向かう早苗と、再び剣道を始めた香織と素面素小手で対決し、思う存分打ち合う。ひゃー、これは酷い。最後に勝負に燃えるようになった早苗、巌流島よろしく対決し、互角の戦いで二人は友情を育む。駄目ですよ!防具もつけずに打ち合っては、危険だ。剣道をする人間は絶対にこんな事をしない。血だらけの怪我をしてしまう。本当に血潮したたる決闘にすれば凄いが、全く剣道しない監督の作品としか思えない。この作品は、ひたすら、主人公の二人の美形とさわやかなムードに助けられている。まあ、インターハイ出場がどんなに大変で、選手が苦労しているかは全く知らない監督が作ったとしか思えない。イージーさが緊張感を失わせ、かえってお気楽に見ることができ、出演している二人に美形女優を愛らしく見せる事には成功している。

 剣道は勝負にこだわり、また、楽しく稽古をすることにもこだわる。相互作用が大切で、あれかこれかではない。そのあたりの真剣勝負か友情か、勧善懲悪的な割り切り方が、この映画を薄っぺらなものにしているが、大会のシーンとか、立派な道場、稽古風景等、シロオトがお膳立てした演出とすればよく出来ている。もしこれを剣道家が監修しているとすると剣道稽古ではとんでもないシーンの連続である。面の打ち方、円陣稽古、突き飛ばしや反則技の連続で全く噴飯ものである。でも、お気軽ににやにやしながら楽しむにはいいだろう。全く感動はしない。ひたすら二人の可愛い女優に助けられた作品。


by katoujun2549 | 2011-03-24 23:04 | 映画 | Comments(0)