動脈硬化とコレステロール論争はじまる
恐怖感溢れる「シオノギ製薬」の動脈硬化への警告CM「♪ヘイ~ヤッラ~ヤタティ~ヤ♪ヘイ~ヤッラ~ヤタティ~ヤ♪(?)」が評判だ。BGMにこんな感じの不思議なメロディーが淡々と流れる。電車内部は混雑している。座席に座っている男性が何かを見越したような表情で座っている。吊革につかまっているスーツ姿の男性の背中に、血管のイラストが描かれた紙が貼られ、そのイラストの血管が次第に詰り、内部に粥状硬化が進行すると、男性が胸をおさえ、倒れ込む。周りの男性たちの背中にも同様の紙が貼られている。シオノギはロスバスタチン(商品名クレストール)が主力商品だ。メバロチンとか、リピトールといったコレステロール値降下剤が攻撃されている。スタチン系のコレステロール降下剤は現在多くの人が使用しているが、警鐘が鳴っている。バイエル社の降下剤では死者が出たことがある。しかし、ファイザーも似たような、高脂血症の危機を訴えるキャンペーンをはりだした。シオノギのCMは会社の命運がかかっており、まさにあの座席に座っている会社員はシオノギそのものなのだ。
コレステロール値が高く、高脂血症と診断された人の方が、そうでない人よりも脳卒中の死亡率が低く、症状も軽くなるという調査結果を、東海大学の大櫛陽一教授(医療統計学)らがまとめた。一般に高脂血症は、動脈硬化を引き起こすため危険と考えられており、今後、議論が高まりそう。大櫛教授らは動脈硬化が一因といわれる脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)で入院した患者計1万6850人を対象に、高脂血症の有無と死亡率、症状の強さを比較。その結果、脳梗塞で入院した患者のうち、高脂血症でない9851人が入院中に死亡した割合は約5.5%だったが、高脂血症の2311人の死亡率は約2.4%にとどまった。脳内出血や、くも膜下出血でも、高脂血症があると、死亡率は半分から3分の1だった。悪玉といわれるLDLコレステロール値が高いほど総死亡率が低くなるとのデータもあり、日本脂質栄養学会は今年9月、「LDLコレステロール値が高い方が長寿に結びつく」という内容の指針を発表する方針でいる。
コレステロールが高い、と言われ、健康に不安を抱く人は多い。日本では驚いたことに、成人の4分の1以上、中高年女性に限ると半数以上が高コレステロール血症とされ、患者は2000万~3000万人!とみられる。 高コレステロールが問題なのは心筋梗塞などが起きやすいとされるからで、日本動脈硬化学会は総コレステロール値220以上の場合を診断基準としている。だが昨年、大阪府守口市で住民約16000人を5年間にわたって調べた結果、コレステロールの高い人の方が脳卒中などが少なく、死亡率が低いと報告された。福井市や大阪府八尾市などでも同様の調査がある。
「コレステロールは高いほうが長生きする」富山医薬大教授・浜崎智仁著、エール出版社
「コレステロールに薬はいらない」浜 六郎著 角川書店
日本動脈硬化学会は、診断基準の目的は、心筋梗塞などになる可能性がある人の「スクリーニング」(選別検査)だと説明している。だが、実際に心筋梗塞を発症するのは年間1000人あたりわずか1人程度とされ、中でも女性の発症率は、男性の半分と低い。それにもかかわらず、中高年女性の半数以上を「異常(病気)」と判定する現行の検査は、あまりに大雑把ではないのか。むしろ余分な精密検査を強いるうえ、多くの人に健康への不安感を与える害が大きい。薬物療法を受けている患者の3分の2程 は女性とされ、「多くの中高年女性に必要性の疑わしい治療が行われている」と指摘される。
日本脂質栄養学会は「欧米の過去5年間のデータをみても、少なくともLDLコレステロール値の140ミリグラムや、総コレステロール値の220ミリグラムの基準は低すぎると主張。最近はコレステロール値だけで判断して薬を投与することはかえって害があるという。ちなみに、米国ではLDLコレステロール値が190ミリグラム未満であれば、正常値だという。コレステロール関連の学会は二つある。 これまでの常識がひっくり返されるかもしれないのだ。コレステロール値が高い方がよいという人が多い学会が日本脂質栄養学会、一方、日本動脈硬化学会という別の学会はこれまでの基準をつくった学会。1991年に日本医学会に加盟しており、会員2300人を擁する。
最近お医療の現場では、ただ単にコレステロール値を下げるためにスタチン系降下剤を処方する事は控えるのが見識ある判断とされるようになっており、ガイドラインがある以上、運用や、患者の状態で医師が判断することになっている。むしろ、危機感を抱いているのは3000億円もの市場をあてに薬を開発してきた製薬会社であり、冒頭のCMはまさにその反映である。
ある循環器系医師の寄稿もある。(http://www.amazon.co.jp/review/R2Y0944CX0P0T0)
「同意できるところも多々ありますが、スタチンに全く意味がないという判断を下すのは危険だと思います。心臓の動脈硬化を血管の中から超音波で診るIVUS(アイバス)という器具を使うと、スタチンで動脈硬化のプラークが退縮していくことがよく報告されるし、自分も目の当たりにしているので、これは嘘ではありません。狭心症の患者さんもスタチンを飲んでいるほうが予後がよいこともよく言われており、少なくとも狭心症や心筋梗塞にになった人に対してのスタチンというのは、悪いことばかりしているわけではないと思う。(製薬会社のゴーストライターの関与のない研究です)この本を読んで勝手に薬をやめないように気をつけてください。
著者のいう通り、他に何の疾患もないのに、ただコレステロールが高いということで、薬を飲む必要があるのかは自分も疑問に思います。生のデータは手に入らないし検証するのは難しいのです。でもガイドラインに書かれてある以上、下げるように指導せざるを得ないのが医療の現場なのです。こうした意見も尊重すべきであろう
気をつけなければならないのは、そうした論争に振り回される事だ。自分自身の健康状態との関係を考えた方がよい。すなわち、狭心症や、心筋梗塞になった人は、そうした論争とは別に、自分自身雄の状態に応じた、医師の処方を受け入れざるを得ないということだ。総コレステロールが高いだけの人は、確かに、安易にスタチン系の薬を使う必要は無い。しかし、減量によって数値が下がらない人、糖尿病や何らかの血管障害を発症している人は、その人の症状に応じた判断が必要出ると言う当たり前のことだが、不安を抱かず、これまでの治療を続けるべきだと思う。