知っておきたいアメリカ意外史 杉田米行 集英社新書

杉田米行 著 知っておきたいアメリカ意外史

 現代のアメリカの政治の底流となっているアメリカ史を問題別に簡単に述べている。しかし、歴史に関しては、確かな史観や学識によっているところが、安心して読める内容となっている。アメリカのオバマ政権が取り組む医療改革、妊娠中絶問題、人種問題、アジア政策など、全てにアメリカの歴史的な背景があり、実はこの事があまり日本では知られていない。結果だけがマスコミ等で喧伝されるからだ。

 アメリカ史のポイントは独立戦争、南北戦争、米英戦争、テキサスやキューバ支配につながる米西戦争、そして太平洋戦争とベトナム戦争だ。これらが、今日のアメリカの原点をなしている。民主党と共和党が南北戦争後どうなったのか、何故アメリカには共産党が育たないのか。さらに摩訶不思議なアメリカの医療制度。女性の権利がどのように拡大したか。中絶問題とは・・・・といったアメリカの社会問題の原点が分かり易く解説される

 アメリカの国歌の歌詞は実は酒場で歌われていた。スタースパンクルドバナーというアメリカ国歌は実は1812年の第二次英米戦争でのマックヘンリー要塞の防衛という詩にアナクレオンティックソサエティという音楽家クラブの歌「天国のアナクレオン」という歌が合体したもので、国歌になったのは1931年の事。第一次大戦中は大リーグのワールドシリーズで歌われた。そんなわけで、スポーツ大会に於いては切り離せない歌だった。

 アメリカの政治は黒人奴隷の問題とは切り離せない。現在のオバマ大統領の時も大統領夫人の先祖のことが話題になったが、実際この問題を巡って南北戦争も起きたのである。勿論、ヒューマニズムの問題より南部の自由貿易対北部の保護貿易、農業生産中心の奴隷承認州と工業中心の北部諸州との連邦分裂阻止の為の戦いであった。

 アメリカの医療改革がこれ程までこじれる原因は、第二次世界大戦中に職場健康保険が非課税となり、インフレ抑制策と賃金の平等性を確保する為の労働政策に対する企業側の対応として生まれたことに端を発している。ベトナム戦争は日本の仏印進駐から始まっている。

 二大政党の政策はこれも黒人の問題—公民権法を軸に南北戦争以来の勢力変化が生まれた。公民権法に反発を抱いた白人層に取り入った共和党で逆転した。公民権運動に対する共和党の戦略から南部に対して共和党が勢力を拡げるきっかけとなった。

 全体としては裏面史というより、アメリカ人なら高校生までの間に学校で習う内容の事が分かり易く語られている。しかし、経済学上も論争がある問題、ニューディール政策の効果に関して、ただ、第二次大戦によってアメリカ経済が回復したと言い切っていいのか、大統領のリーダーシップは見事だし、金融政策の成功は語られない。それぞれの問題はさらに大きな背景がある。アメリカ社会史に関する入門書としては優れ物だと思う。

[PR]
by katoujun2549 | 2010-08-30 15:05 | 書評 | Comments(0)