この金融政策が日本経済を救う

 我が国が深刻なデフレ状態にあることは衆知の事実だ。これは、世界史的な視野で見なければならない。我が国は、戦後物作りを中心に、輸出による貿易黒字を続け、ドルを稼いできた。中国もそうだが、この国際収支における黒字を社会資本の整備に充てるより、産業資本と米国債に蓄積してきたこと。少子高齢社会における準備不足。アジア諸国の製造業の追い上げと、海外生産拠点の移転という産業環境の変化が今日のデフレの原因となっていることも考えると、金融政策でこれを解決しようにも焼け石に水のような気がする。難しいのは中国の勃興が21世紀におけるアメリカに代わる経済の主役になりうるかということだが、まだ未知数要素も多い。しかし、これまでのトレンドからみると、東アジアにおいて日本以上の大きな経済力を持ち、文化的にも、軍事的にも大きな存在となるだろうと思う。中国が低価格や粗悪品の輸出国から大きな内需市場を持った先端的な技術を持った国となうるかだ。その段階で日本のデフレも少子高齢化も解決して行くだろう。デフレ要因が複雑に絡まっているとすると、その端緒として、金融施策があり、その結果について明確な政治的決断が求められていると言えよう。もし、これがなければ、再び悪質なインフレや、バブルによってその被害はもっと深刻になる。単なる利権争いー財務省、日銀、政府の縄張りを巡っての攻防ではなく、挙国一致で対応すべきことだ。
 このところ、インフレターゲット論の声が高い。それに対して、いやいや、そんな軽薄にインフレを呼び込むのはハイパーインフレになる。「この金融政策が日本を救う(高橋洋一著 光文社新書)」「日銀貴族が国を滅ぼす(上念司 光文社新書)」を読む限りでは、インフレターゲット(IT)論が正論のようだ。上念氏は、IT論に対して、経済はそんなに単純ではない。経済にはもっと複雑な要因が沢山あって、まあ、シロオトは黙っていなさい。というのが、日銀の論理だと言う。上念氏も高橋氏もIT論者だ。自分は金融論も経済学も理解が浅いので、公にものを言える立場ではない。しかし、この3年間の日本の政治と経済政策が殆ど機能していないのではないか、あるいは全く逆のことをしているのではないか。それは結局、官僚支配の国家に対する不信感が根源にある。日本の官僚機構は目標を明確に与えられた時によく機能する。それは東西冷戦においてアメリカの忠実な僕として、アジアでの役割を立派に果したことで証明される。ベルリンの壁崩壊から世界は変わった。日本という国は、世界における自国の役割を未だに見出すことが出来ない。金融政策のプロであるはずの日本銀行が実は機能していないという上念氏の論はつい納得してしまう。とはいえ、日銀法を改正して、政治家の介入を呼び込むきっかけになることも危い。確かに、ITがデフレを効果的に解消する力があることを立証できない。そこで、IT論はまっとうな中央銀行の役割を果たせという意味に捉えれば良いと思う。
高橋洋一氏の「この金融政策が日本を救う」は書名の割には、オーソドックスな金融論の入門書になっている。大蔵官僚からプリンストン大学に研究員となり、アメリカのクルーグマンなどの経済学者と直接接した感覚が結構読ませる。特に、世界大恐慌はニューディール政策、ケインズ理論による公共投資と戦争によって克服されたという通説に対して、金融政策ーブレトンウッズ体制において解決されていたという理屈だ。小生は経済学のシロオトだから、検証の仕方が分らない。
 世界各国、中央銀行は貨幣供給をコントロールしながら、インフレとデフレを自然現象ではなく、制御可能な範囲でコントロールすべきであるという常識にしたがって金融政策を行なっているのだと思う。世の中には、癌になったら、食事療法で直しなさいとか、やれ手術だ、抗がん剤だと主張する人がいるが、どれも実は決め手ではない。患者の立場に立って判断しなければならないのに、自分の専門分野にこだわった主張をする人が多い。そこでは患者が今の時点でどの方法が最適であるかという判断が飛んでいるのだ。政策当事者は何らかの決断をしなければならない。もしこれをする機能も情報もないとなれば、患者はどうしたら良いのか。2%のインフレを起すよう通貨供給を増加する手だてが何故、ハイパーインフレになるのか。ハイパーインフレというのはアルゼンチンとか、ジンバブエのような何万倍ものインフレのことだ。これが何故起きるのだろうか。この10年間に、一体何故日本の世帯の40%が年収200万円なのか、若者の失業が10%を越えたのか。いや、ヨーロッパはもっと酷いよという人もいる。これは、移民の数とか、中産階級の困窮度とか、一定の条件において比較しなければ他国の事情は分らない。アメリカはITやっていないというのは理由がある。アメリカは中央銀行は存在せず、FRBが金融政策を行なっている。FRBは失業率にも責任がある。アメリカでは、インフレがすぐに人件費コスト上昇を避けるため、レイオフが行なわれる。失業率を上げる政策を同時には取りにくいという事情がある。アメリカは財政出動も、金融政策も素早い判断を行なう国だ。国民を低く見た政治や専門家は自らを振り返ってほしい。自分がそんなに専門家なのか。実際はペーパードライバーみたいなものじゃないの。これまで、渋滞で前の1台だけ見て運転してただけ。日銀なんぞ、実は車も持っていないんじゃないか。1ドル360円時代にアメリカ横目にやっていただけ。人も育っていない。外務省もそうだ。上念氏のいうように、これが、さらに官僚言いなりの政治家が介入できるよう日銀法改正までしたら、お先は真っ暗だろう。
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by katoujun2549 | 2010-07-31 12:52 | 書評 | Comments(0)