偽善の医療 里見清一著 新潮新書

 医療にまつわる様々な偽善を現役医師が看破する。
「患者様」「セカンドオピニオンのせいで患者と医者が疲弊する」「インフォームドコンセントは本当に良いことか」「有名人の癌闘病記は間違いだらけ」「病院ランキングは有害である」「安楽死を殺人扱いするな」――。このような、現代医療を取り巻く通説、特に官僚とマスコミが医療の立場を無視し、彼らが主導して「医療改革」を行った結果が、何だったのかを明らかにする。
 小生の知り合いの医師が、下町の都立病院に勤務したとき、患者を「患者様」と呼ぶ事とされ、その通りに、○○様と言ったら、下町のオッサンだったが、「オレを馬鹿にするのか?」と言われたのにショックを受け、それ以降は○○さんと言うようになった。まさに本音の事だなと思った。里見氏は病院勤務の中から、患者が陥り易い医療への期待とか、医療側の過剰な対応、特に、現場の経験の無いマスコミや役人の考えた「医療」の現実を極めて常識的に取り上げ、問題点を指摘、本来のあり方を語る。
 医療の世界は一般の患者、門外漢には分りにくい。医療側にも実像を知らせる努力が無かったこともある。情報の非対称は診療の時だけではない。このことが、様々な誤解を生んで来た。現場を知らないマスコミと厚生労働省が、誤解まじりの医療改革を行って来た。インフォームドコンセント、セカンドオピニオン、ランキングといった横文字は皆アメリカで行われている手法である。しかし、アメリカの医療は必ずしもお手本とするには相応しいものではない。お手本になるのは社会保障制度の中にある、イギリスやフランス、スイス、ドイツといった諸国の制度である。国の置かれている基盤が違うのに、ビジネスに影響されたアメリカ中心主義が間違った政策を生んでいる。
 病院ランキングは確かにアメリカでは有効だ。保険会社や患者もこれを頼りに病院を選定する。ところが、これを行わねばとんでもないことになる。保険会社の選定したランキングに合わない病院には当然行けない。無理にやむなくランクの高い病院に入院すれば、支払いきれないほどの医療費を請求され、患者は破産してしまう。そんな医療制度を知っている人は良いとは誰も言わないだろう。命に値段のある国の制度である。また、病院のランクと、医師のレベルも大体一致し、医師資格試験の成績は病院の採用条件になるから、ランクの高い病院には成績の良い医師が行く。ところが、アメリカ程、医療事故の多い国は先進国ではないのだ。一部の金持ちは世界的な高度医療を受けられるが、一般にはたいしたことが無いし、病院には行けない人が沢山いるのがアメリカである。そうした、過酷な医療環境にある人が対抗措置として行っているのがセカンドオピニオンであり、横文字のシステムである。

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by katoujun2549 | 2010-05-30 18:11 | 書評 | Comments(1)
Commented at 2010-06-01 10:57 x
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