生命のセントラルドグマ 生命の根源 武村政春著

 DNAが遺伝子を構成し、その二重螺旋構造において塩基配列の転写コピーが行われている事を、クリックとワトソンが1958年に発表して以来、この仕組みは不動の地位を得て、セントラルドグマと言われている。しかし、その後、次々とこの構造を支える仕組みが発見されて、そのメカニズムは益々複雑で、神秘性を増している。遺伝子の情報がmRNAに転写される時、多くの、実に複雑な酵素の作用が働き、たんぱく質の形成に至るまでの関係物質の役割が分れば分る程驚きは増すばかりである。RNAポリメラ–ゼという酵素がその転写活動に関わっており、このメカニズムが実に複雑である。
 転写は基本転写因子(transcription factor)TFⅡA、B、D、F、E、Hが転写の作業にかかわり、更にこれらを「メディエーター」という30種類ものたんぱく質がこれに作用しながらmRNAの複写を支えている。mRNAの転写には単純化して整理すると、次の段階を経たシナリオが用意されている。RNAポリメラーゼはDNAに絡み付き、二重螺旋を切り離して転写を行い、転写された情報の鎖を鉋のように切り離して行く。DNAはすぐに復元される。これは①転写前複合体の形成(プロモーター:転写のきっかけづくり役、RNAポリメラーゼ呼び込み役、転写開始促進役 ②RNAポリメラーゼⅡによるmRNA合成開始 ③スプライソゾーム形成(エクソンの集約とイントロンのラリアット化)④プロモーターのリセット⑤転写伸張と⑥7-メチルグアニル酸による先端部キャップ取り付け ⑦RNAポリメラーゼⅡのC末端ドメインの尾尻CTD(YSPTSPS×52)におけるポリA付加因子による200個のA,ポリA結合たんぱく質の結合 といった流れである。これが終了するとこれがリボゾーム上でたんぱく質を合成するのである。ところが、これとは全く逆の現象も発見された。レトロウィルスによるRNAによるDNAの逆転写である。これはDNAポリメラーゼの特異形であり、エイズウィルスがこれにあたる。レトロウィルスは感染した宿主の細胞の中で自身のRNAからDNAを合成して宿主のDNAに組み込んでしまう。この発見チームのハワードテミンとディビッドボルチモアは75年にノーベル生理医学賞を受賞した。

mRNAからtRNA、さらにミトコンドリアのmtRNAなど、たんぱく質を作る転写機能がますます複雑な機能を持っていることがわかってきた。さらに、RNAに結合してコドンという仕組みでたんぱく質を製造して行くが、そこにも、また様々な酵素が作業をしている。遺伝子の複雑な動きは、まさに誰かがドラマの筋書きを書いてあるからできているように見える。それは結果論かもしれない。しかし、こうしたメカニズムが30億年という長い時間をかければ、偶然の積み重ねで可能であろうか。進化論とか、自然淘汰といった単純な論理でこれらが可能になるとは到底思えない。神秘の彼方を全て神のせいにするのは思考停止だが、そうならざるを得ない領域は必ずあるのだ。神の計画で作られた生命の仕組みと言わざるを得ない。
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by katoujun2549 | 2010-03-31 17:36 | 書評 | Comments(0)