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映画 愛を読む人

 これは、とてもアブノーマルな物語だ。だから小説になるし、映画で表現される世界である事を断っておかねばならない。様々な不条理な出来事が続くのだ。 

 大雨の日に猩紅熱で嘔吐し倒れていた高校生マイケルを路面電車のチケット車を売る車掌ハンナは介抱し、恋愛関係になる。前半の二人の関係はマイケルが彼女に本を読んであげるという奇妙なベッドタイムが繰り返される。ホロメスのオデッセイをはじめチェーホフに至る古典等を彼は読んであげる。彼女は字が読めないのだが、それを隠そうとする。ところが、ある夏、突然彼女はアパートから姿を消す。彼女は、電車の現業員から昇進する事が決まった直後に姿を消す。文盲では仕事を続けることができないからだ。
 
 とにかく、前半は年増女性の少年に対する淫行シンーが続く。しかし、それはやがて愛に変わって行くのか。少年にしてみれば、最初は未体験ゾーンを導いてくれる「おばさん」だったのが、どうも、本を読んであげればサービスしてくれるという打算から、忘れられない女性になっていく。一方、強引で、弱味のある人間を自分の欲望に引き込んで行く、ナチス強制収容所仕込みの
権力的な女性が若いお坊ちゃまを籠絡するのは容易いし、こんなことは世間ではよくあるのかもしれない。イギリスのチャールスとカミラもそうだから。

 マイケルが再び彼女を知るのは、彼女がナチスのホロコースト加担者として、裁判にかけられた時であった。マイケルが成長し、ハイデルベルグ大学法学生となって裁判実習で彼女に出会う。マイケルは法学生として大学のゼミで議論し、アウシュビッツに出かけ、その重みを知る。ハンナは文盲であることを隠し通そうとしており、そのために不利な証言を認め、最後に筆跡鑑定を断って自分が責任者だったことを否定できず。無期懲役の判決を言い渡される。マイケルは何故、彼女が文盲であることを証言しなかったのか。彼女は収容所でも処分される収容者に同じ事をさせていた。これも彼は彼女の思いを理解し、また、彼女の罪の重みに関しても、わざわわざ証言に立つ気がしなかったのだろう。このことを老教授に相談するシーンが中途半端に挿入されているが、全体の流れの中でカットされたらしい。見る人の想像力を引き起こす監督の判断だと思う。
 無期懲役ということを文盲を隠すために選択するというのは異常な感じもある。しかし、それは彼女の立場に立ってみると、自分の身の置き所は、もう一般の社会には無いのだ。彼女に責任を押し付けた他の被告がふてぶてしい、いかにも、ナチの元悪看守という感じが出て面白かった。親衛隊とはいえ、当時、アウシュビッツの看守はまともな仕事ではない。結構田舎娘とか、工場労働者の女性が権力や高待遇を求めて採用されていたのだ。
 
 1976年。弁護士になったマイケル(レイフ・ファインズ)は、結婚と離婚を経験し、幼い娘とも別れ、再び一人で生きていた。彼は、ハンナへの想いという答えの出ない問題を抱え続けていたが、彼女の傷跡に向き合うために、そして彼女の無数の傷を癒すためにある決意をする。テープレコーダーに思い出の本の数々を吹き込み、ハンナが服役する刑務所にテープを送ったのだ。彼女の最後の朗読者になるマイケルはハンナに朗読テープを送り続ける。彼女は刑務所でテープを使って字を覚える。20年後ハンナは釈放されるが、マイケルが迎えに来る前に自ら命を絶つ。彼女はやはり、字が書けるようになっても、新しい世界に入って行く希望は持っていなかった。愛という過去と歴史の重荷を背負う人の物語だ。
 
 ヘルガーシュタイナーの「黙って行かせて」という小説を読んだが、これは母がナチス親衛隊、アウシュビッツの看守だった女性の自伝小説。老人ホームにいた離ればなれになっていた母親に会いに行くが、あまり反省していないの呆然として、母親の業の深さを後に去って行くという寂しい話。ナチスの元隊員は、確信犯であり、アイヒマンやブラジルで死亡が確認されたメンゲレ等もそうだ。シュパンダウ刑務所の最後の囚人、ルドルフへスも最後まで自分の非を認めなかった。しかし、この物語はそうしたナチズムの話ではない。
 
 原作はベルンハルト・シュリンクの世界的ベストセラー「朗読者」。念願のアカデミー賞主演女優賞に輝いたケイト・ウインスレットによって、弁解を一切しない孤高の女性ハンナの人物像が小説よりも明確に浮かび上がる。相手役の新人デヴィッド・クロスも好演。監督は『リトル・ダンサー』の名匠スティーヴン・ダルドリー。ケイトウインスレットはあのタイタニックでは金持ちの少女ローズ役でデカプリオの相手役だったが、あれから13年経った。彼女はまるで別人のように見える。というより、演技派なのだ。中産階級、労働者階級というドイツ社会の雰囲気がよく出て、ドイツの田舎町の風景や時代に応じたベルリンの街が見事に描かれていた。

 確かに、最初に難しい本を読んで行くと、途中で飽きてしまう。そこで、Hというのは気分転換に良い方法かもしれない。若い人にお勧めの方法。
 
by katoujun2549 | 2010-03-01 13:53 | 映画 | Comments(0)