現代医学に残された七つの謎 (ブルーバックス) (新書) 杉 晴夫 (著)

現代医学に残された七つの謎 (ブルーバックス) (新書)杉 晴夫 (著)
「不思議な人間の体」

人間の身体には医学や生理学で解明できていないことが無数にあり、きりが無いが、身近なところから

1,何故針や灸が効くのか
2.蚊に刺されると肌が赤く膨れるのは何故か
3.手を洗うことはどこまで病気の予防になるのか
4.病いは気からは本当か、本当なら何故か
5.風邪を引いた時の入浴は風邪を悪化させるか
6.プラセーボ効果とは何が原因か
7.タンパク質はいかに作られるか
8. 何故人は眠くなるのか
9.筋肉が動く原理
10. 磁力線は身体にどんな働きをしているか

 これらは未だに一部しか解明されていないという。特にプラセーボ効果というのは不思議なことで、その問題は、精神が人間の自律神経系に作用する経路があるのかという事にもつながる。
また、手洗いとか、風呂というのは多くの人が体験する事だが、疫学的な調査は全く行われていない。漢方や、鍼灸も現代の治験制度の外側にあり、データが無く、効いた人の話だけが伝わり、効かなかった場合の情報もあるはずだが、消えてしまう事が多い。タンパク質や筋肉の話は現代の生理学最前線の分子生物学の問題として大きな課題を含んでいる。人が、眠くなる原理とか、精神的ショックやストレスが、健康、特に自律神経系にどう影響するのか、これは脳の神経系に関係している事である。目の奥、こめかみの位置に視交叉核という部分があり、これが、光とか概日リズムを感知し、体内時計に影響すること、また、脳幹網様体に感覚神経と自律神経の交換部分があるのではないかといったことが研究されている。いまの生理学や医学的研究は、ビジネスや国の予算にからんで発達しており、そのラインから外れていると殆ど研究が進まないという残念な傾向を持っている。 

 ビップエレキバンが効くかどうかは、実証実験の結果では、これを貼った部位の温度が上昇する。その周辺の血管が拡張して血流が良くなり、不快感の原因が減少することが推測される。しかし、治験は行われていない。はり灸ではヨーロッパの方が研究が盛んで、治験の結果がその効果を証明し、鍼灸は保険が適用される。約50%の人が鍼灸で症状が改善された。ところが、40%が、偽の鍼で治癒してしまった。これはプラセーボ効果という事で、薬の偽薬に反応する効果として知られている。この原因は未だに分かっていない。
人間の神経系は感覚神経と自律神経と分かれそれらは独立している。これがどうも、神経中枢部で関連性を持っているらしいが、良くわかっていない。どこかで自律神経に感覚神経の情報が流れている筈なのである。また、人間の視神経が脳の中で交叉している視交叉上核というところが、睡眠に関わる概日リズムを守っている。ここが、太陽の光の周期を身体に伝え、睡眠にも関わっている。かつて、睡眠物質の発見競争もあったが、これは過去の話で、今は神経系の研究に焦点が移っている。この本では、著者の専門である筋肉のメカニズムは得意分野だけにきめ細かく、シロオトには難しい。これ以外は記憶の仕組み、ゲノムとたんぱく質の形成過程が分かり易く解説されている。

 昨年の事業仕分けで、スーパーコンピュターが何故世界一でなければならないのかという連坊議員の質問があったが、こんな質問をする事自体が、科学についての全くの無知を物語っている。この予算は復活したが、何もコンピュターの速度オリンピックをやっている訳ではない。
科学技術の最先端を先進国として目標にするかしないのかということである。我が国の置かれている状況は、OECD諸国の中で、他国にひけを取らない活動をしていくことが、国の産業全体に影響するという事である。268億円の問題ではない。トップレベルのコンピュターがあるということは、これを使う、世界のトップ技術者、研究者が集まってくる。この集積が、国の科学技術の厚みを守って行くことが出来る。ゲノムの技術、地球環境、宇宙開発等関係者はこうした設備の整ったところに集まるということである。先端技術者がアメリカに集まる理由はまさにそこにあるのだ。高度なインフラを求めて、技術交流し、さらに後進を育てて行く。この構図は常識的な事ではないのか。問題はどの研究分野を日本は中核にしていくのか。政策的にこうした事を政治家が示さなければ、その無駄は計り知れない。今日、医学研究においても、政府の助成を中心に、研究者が集まるかわりに、基礎的な部分や、投資価値が低い分野は著しく進歩が無い。例えば、鍼灸が本当に効くのかという治験は日本では行われていない。むしろヨーロッパでは大掛かりな研究が行われ、この治療には保険が適応されている。iPS細胞の研究については突然助成金がついたが、この額は世界のレベルでは一桁違う。世界から研究者が集まるようなインフラ、留学条件、住まいなどまで算定すればその何倍かのコストがかかるが、これも考慮しながら整備すべきではないか。単なるスーパーコンピューターだけの問題ではないのである。だから、これだけを単独で作っても意味が無く、予算申請者も様々な分野における複合的な相互関係が説明できなければ説得力が無いだろう。事業仕分けの場こそこうした問題を国民に訴える機会ではなかったのか。
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by katoujun2549 | 2010-02-03 15:17 | 書評 | Comments(0)