生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ
講談社現代新書 福岡伸一著

 分子生物学の基本が難しいところをその発見のスリリングな過程を説明するなかで、シロオトにも分かり易く語られて行く。福岡氏のこれまでの学究生活がちりばめられ、興味津々の分子生物学の研究世界がその姿を現す。ゲノムの二重螺旋構造が発表されてから50年以上が経った。その間、この分野は大きく成長した。人間のゲノムは既に解析された。今日、スーパーコンピューターも動員し、癌の原因究明に、また、新薬の開発にゲノムの解析と、その成果の活用は欠く事の出来ない技術である。
 
 生命の根幹をなすゲノムの構造は4種の塩基、ヌクレオチドというアミン(A)チミAン(T)グアニン(G)シトシン(C)の組み合せ、A—T 、C—Gが対応した形ではしご型で螺旋状に水素結合したものである。この螺旋型のはしごが、ジッパーのように分かれて、それぞれの対応塩基を引き寄せて複製し、タンパク質の鋳型となる。DNAがRNA(tRNA、mRNA、rRNA)という3種のRNAを複写、これがアミノ酸を材料にプリントし、20種類のタンパク質を合成する。タンパク質はさらに様々な組み合せで、立体的に組み合わされ2万種類以上にのぼり、生物の形を形成する。この生成過程において様々な酵素が働きかけ、塩基やアミノ酸の結合を促進する。この理論の発見にいたる様々な登場人物がドラマのように登場する。
 
 DNAが遺伝情報を担っていることを突き止めたのはロックフェラー大学研究所の地味な研究者エイブリーであった。DNA構造はロザリンド・フランクリンという女性研究者がX解析によってその基礎資料を積み上げていたが、これを読み取ったJワトソン、Fクリック、Mウィルキンスが二重螺旋構造を解明した功績でノーベル医学生理学賞を取り、同じく、彼女のデータを見る立場にあったMペルーツはタンパク質の構造解析の功績で化学賞を取った。しかし、フランクリンはX線にさらされた研究が彼女の命を縮め、彼らがノーベル賞を取る4年前に若くしてこの世を去った。ゲノム解析のためにはまとまった量のDNAが必要だが、このゲノム複製促進装置を作ったのがKマリスであった。これらの研究者達のドラマが語られる中で、ゲノムの性質が分かり易く説明される。
 
 こうした、現象の根本が、原子の性質であるブラウン運動によってはじまり、エントロピーの拡大という作用、さらに平衡状態の維持という物理法則を基盤に様々な反応が起きる。DNAを複製することが出来るようになったために、僅かなDNAが大量にコピーされ、犯罪捜査等に利用されるようになったのである。

[PR]
by katoujun2549 | 2010-01-26 23:34 | 書評 | Comments(0)