アラブの大富豪

「アラブの大富豪(前田高行著)」
著者はこの本をブログの記事を書きためたものを使って書いたという。
中東最新情報「アラビア半島定点観測;http://ocin-japan.blog.drecom.jp/」
中東情報分析「中東経済を解剖する:
 MENAEconomic Informant;http://www2.pf-x.net/~informant他2つのブログであるが、石油関連の専門的なものである。長年のブログの記事の積み重ねが、新書版の出版にまでつながった事は驚きであり、また、ブロガーには励みである。
 この本はサウジアラビア王家と御用商人たち、世界一多忙なドバイのムハンマッド首長、サウジの王族投資家アルワリード王子、湾岸諸国のオイルマネー、ヨルダンハシミテ王家、アラブの政商といったアラビア半島の意外と知られていない権力構造や経済指導者について紹介している。中東問題を考えるときにこの人達の姿は知識として忘れてはならない存在である。豊かになった彼らは今日、国際社会で賢くその地位を守り、パレスチナ問題には距離を置いているように見える。イランやパレスチナ難民、シリアやレバノンのヒズポラやハマスの動きは彼らとはあまりにも遠い。
 中東には世界の石油資源埋蔵量の半分が眠っており、その量は1兆2000億バレルと言われている。アラビア半島最大の面積を持つのがサウジアラビア、そしてヨルダン、シリア、イラク、更にアラビア湾沿岸のクゥエート、ドバイ、カタール、アブダビ等のアラブ首長国連邦、そして、先端部のソマリア、オマーンである。本書ではこうした諸国が、いかにして富を得、世界にオイルダラーー(ペトロダラー)として金融証券界に力を持つに至ったかを描いている。湾岸4国の貿易黒字は毎年2000億ドルと推定され、その資産運用額は250兆円と言われている。これらの国は人口が少なく、一人当たりGDPは出稼ぎ人口を引いた国民一人当たりでアラブ首長国連邦14万ドル、カタール17万ドルで日本やアメリカの4万ドルと比べると4倍前後である。金融資産は国内消費には限度があり、持っていきどころが無く、建築投資に振り向けると、ドバイのようになってしまう。オイルマネーの運用次第で世界市場に大きな影響力を持つに至った。今の日本の株式市場が低迷しているのは、この運用対象国としての比率が低下しているからである。国として、彼らから見放されている。一国の総理大臣の言動、世界経済における重要度が下がっている。この政治性不況が戻るまで、一体何年かかるか分からないが、国際社会は現、鳩山政権のような、政権内部調整を優先させ、対外的な合意事項を反古にしよとする事態を重視しており、政治リスクの高い国には金を回さない。普天間の問題が単に軍事的な問題ではなく、極めて経済問題に直結していることに、社民党は気がついていない。こうした連立政権は彼らのような専制君主国にとって理解できない奇妙な国であって、投資対象から外れるのである。社会民主主義者には逆に君主制が理解できないであろう。
 アラビア半島の盟主はサウジアラビアであるが、この国王サウド家はアブドゥールアジズ(サウド王)によって確立された。サウド家はもとはベドゥインの一族であった。サウド王がアラビアのベドゥイン諸族をまとめたことが、今日のサウジアラビアの基礎となった。彼は、イスラム教を厳格に守るスンニーのワッハブ派の信仰を徹底する事で部族をまとめ、メッカからハシミテ家をヨルダンに追放した。彼が部族をまとめる手段として採ったもう一つの政策が血縁関係である。彼は26人の王妃の間に36人の王子をもうけた。それらの王子が複数の妻を娶り、254人の王子が生まれ、さらにその子供の王位継承権者は1,000人ほどいるという。彼らは石油の利権を握り、王権を中心に国の近代化に成功しつつある。このサウド家を中心に様々な利権が結びつき、その中でもビンラディン家は建設業を中心に財を成した。その系列のオサマビンラディンがアルカイダの中心である事は皮肉な結果である。今日のサウジアラビアは市場主義経済をもって欧米に強く結びつき、その中心人物として、ビジネスにおいてシティバンクを支える力を持つアルワリード王子である。
 アラビア半島の諸国は皆専制君主制である。民主主義ではない。しかし、この国々は社会保障や医療、教育といった国づくりに資源を有効に利用し、OECD諸国を上回る豊かな国ズくりに成功した。民主主義が絶対ではないという証明であろうか。その背後には一京円に上がる石油資源があるということもある。しかし、民主主義を目指したイラン、イラクのように膨大な富を活用しきれない国もある事を考えると、リーダーの資質や欧米との歴史的な過去が大きく影響していると見るべきである。
 一方、ヨルダンはイスラエルと国境を接し、かつて中東戦争を際どく切り抜けたハシミテ家であり、現在はイギリス人を母に持つアブダッラー国王である。ハシミテ家はムハンマッドの血縁を受けたアラブの名家である。かつてハシミテ家はメッカを本拠にアラビア半島を支配していた。石油の重要性が今日程ではなかった当時、バクダッドに本拠を置いたファイサルの子孫は後に滅び、サウジアラビアに覇権を奪われた結果、トランスヨルダンを支配する事になった。資源も土地も貧しく貧乏な国だが、アメリカやイスラエルと争わず、今日国際政治のバランスの中で様々な国際援助を受けて観光国として新時代を迎えようとしている。


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by katoujun2549 | 2010-01-01 21:45 | 書評 | Comments(0)