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一拍子の打ち

1.一拍子の面は難しい

 剣道の修行において、誰もが面打ちを中心に練習を続けていると思う。しかし、この竹刀による面打の練習の目標がなかなか分からない。基本打においては大きく振りかぶり、面を打つ。この動作は基本中の基本である。しかし、ピアノの練習で言えばドレミの鍵盤練習のようなもので、指の稽古ではあるが何度やっても曲は弾けない。こればかりやっていたのでは、試合にも勝てないし、相手の隙を瞬時に打つことはまず不可能である。相手が色を見せたときには振りかぶるところで相手の打が出されたり、体が当ってしまう。昇段審査でもこの一拍子の打は4段くらいまではチェックされない。やっと五段以上になると手の内の冴えとして課題になる。しかし、長年の癖で、このときまでに大きく振りかぶった2拍子の打ちから抜け出せない人が結構いる。この癖から抜け出すのは容易ではない。自分にとってもこのことは大きな課題である。素振りは大切であるが、高段者の先生でも毎日素振りを千本も振るような人は稀である。この一拍子の打を前提に素振りをしていくならばせいぜい100本も振れば充分だと思う。一定の拍子が身に付けば素振りはイメージを合わせるまでのことで足りよう。昔、中倉先生は上段の素振りを毎日千本以上振り、親指の付け根の骨がタコになって出て来たという。しかし、普段はそんなに素振りをしないと言っていた。そのかわり、家の中でイメージを合わせる振りを年中していたので障子が破れて奥様に怒られていたそうである。子供に教えるときでも基本基本と思うあまり、何百回も同じ動作を要求すると飽きてしまうし、無意味なのである。早く一拍子の打を身につけさせるよう目標を持って稽古すべきだ。ここでまずいのは左拳を前に出して引きつける動作である。これは手のうちの冴えが身に付かない。特に集団で素振りをやるのは基本動作のイメージを作る所に意義があるといえる。手の内や一拍子は自分で身につけるものだと思う。学校教育の集団稽古は限界があるということだ。オリンピック選手や、プロの選手は皆自分のメニューを持っている。

2.手の内の冴えと一拍子の打ちを身につける方法

1拍子の打ちというのは、打ち込み稽古を重ねる事で自然に身に付いていく場合もある。というより、百練自得で稽古によってのみ身に付くとされる。振りのスピードを上げて負荷をかける。一足飛びの素振りがそうだが、これは集団で行うから、やはり限度がある。又、若い人では大きな振りでも筋力が強いから自然に出来てしまう。ところが,年齢が進むにつれてそうはいかなくなる。自分もかつては自然に出来ていたものが年も60過ぎになると、2拍子打になっていたのである。しかし、小生が直心影流の法定を稽古し始めるにつれ、解決に近づいてきた。先は法定の木刀は1kgあり、ずっしり重たい。これで形を練習した後は竹刀稽古での竹刀の振りが楽になる。さらに、その4倍ある太い振り棒を10回程振ってみると、法定の木刀も軽く感じるようになった。この重量木刀は持って構えるだけでも大変だから、上下の振りは無理で、一旦左右に横からまわして面を打つことしか出来ない。昔の侍はこれを何千回も振っていたらしい。さらに左右に回すときに手の内の締めによって振り下ろす事を余儀なくされるために手の内の絞りが身に付くという事だ。

3.瞬発力の鍛錬

 剣道の打突で最も大切な事は瞬発力である。瞬発力を支える筋肉は負荷をかける事によって強くなる。一方、同じ動作の繰り返しは瞬発力ではなく、持久力を育てるものである。だから、大きな素振りを軽い竹刀で何千回やっても、瞬発力は鍛えられない。江戸時代のひとはこの事に気づいていたらしい。だから、直心影流では最終的には長さ2m主さ7〜8kgほどの柱のような振り棒をや鉄棒を振って稽古した。実際これは国立の一橋大学剣道部の道場にそのコピーが保管されている。昔の人はこれを千回振っていたそうである。だから、彼らは日本刀を我々が振る竹刀のように振れた。この1拍子の打というのは日本刀での切り付けでも実際に行われ、日本剣道形で面を2拍子で打つ人がいるがこれは間違いである。
 この一拍子の打を身に付けようと思う人は普段より重たい木刀か、竹刀を2本振ってみると良いであろう。そこで大切な事は肩を壊さないように最初は10本とかから始め、すこしづつ増やしていく。だだし、これも一定の数以上続けても筋力は上がらない。江戸時代の剣道修行者は何千本も振ったというが、これは生理学的な知識が無かったからである。
 よく言われる、タメのある打というのはこの手の内と一拍子の瞬発的な打ちが結果的にでれば実現する。

4.茶巾絞り
 手の内の冴えを作る究極の方法は、竹刀を茶巾絞りの要領で打つときに絞ることだ。中倉先生は、雑巾絞りではない、茶巾絞りだぞ!とよく言われた。自分は茶道の茶巾絞りを知らなかった。雑巾絞りは掌の小指を軸に絞る。初心者には打つ時に竹刀を絞れという。しかし、これは打つ時に押し切るように叩くか寸止めには良いが、打撃を与える剣先を生かすことはできない。日本刀は柄が楕円形だから絞りにくい。中倉先生はいつも竹刀を日本刀と見做して稽古されていた。日本刀は柄頭を包み込まずに露出して使っていた。要は茶巾絞りとは親指と人差し指を起点に最後は掌全体で絞る手順である。これが中々茶道をやらない人にはわからないだろう。
この手の絞りによって竹刀を使えば、剣先に力が伝わる。体力も温存する事ができる。むしろゴルフの手の握りに近いかもしれない。

by katoujun2549 | 2009-09-11 14:14 | 武道・剣道 | Comments(0)