イスラエル情勢とウクライナ

    
1.イスラエルのガザ攻撃

 イスラエルの恐怖の綱渡りが始まった。イスラエルはガザ攻撃をアメリカの外交空白期を好機として狙っていた。以前からこの機を何らかの作戦に使う事と思っていた。狙いはハマスから更にイランであろう。イランの原子力施設も狙っているが自国民に対しても大義名分が必要でいきなりは無理だった。イランの革命防衛隊を挑発し、ハマスがレバノン辺りから報復的ゲリラ攻撃をするのを手ぐすね引いているだろう。当面はハマス対策だが、ハマスのロケットでの被害者になったユダヤ人は数人なのにガザではもう4百人以上の死者が出ている。当然攻撃に際してこの結果を予測の上に踏み切ったはずである。ターゲットを絞った空爆を行い、地上軍も進攻を開始した。イスラエルは予備役6700人を召集、これは全体15000人の45%にあたる。ガザ地区ならどれほどの兵員が必要だろうか。東京の山手線還内くらいのところに140万人が住んでいる。ハマス幹部を狙っており、ハマス内部にモサドに内通した者がいるということで、パレスチナ側も一枚岩ではない。この兵力で制圧できるだろうし、残りはレバノンに集中するだろう。しかし、ハマス側も今後市街戦に持ち込んで、イスラエル兵を数人捕虜にすればイスラエルはレバノンの二の舞になるだろう。そして、そのためにレバノンを要塞化しているという。この進攻は終結まで時間がかかり、多くの市民が犠牲になるだろう。一方、シリアやヨルダンが参戦するとは考えにくい。ハマスはイランの原理主義の先兵先であり、また、アラブではない。もともと、イランはアラブの信頼は薄い。全面戦争の構えに入りつつあるイスラエルは勝算があるからやっている事だろう。ユダヤ人の中には今回の金融不況によりダメージを受けている者も多いし、オバマ政権にはユダヤ人が多数いる。停戦を口にはしても制裁は無いし軍事行動をがなければイスラエルはやりたい放題だろう。イスラエルはフランスやドイツに対してはホロコーストの被害者の立場をフルに使ってきた。この手も最近は賞味期限切れだが、しばらくはその立場で御せるだろう。ヨーロッパは不況対策には他国の戦争大歓迎だから内心ほくそ笑んでるはず。ハマス支援のためイランが罠にハマるかだ。ガザの悲劇に世界がどう出るかも問題だが今やアラブもヨーロッパも経済問題で余裕が無い。ここで鍵となるのはイランの出方だ。とはいえ、アメリカと和解出来ない。だからヨーロッパに石油を売るしかないのだが、不況で需要が減退しているのが弱みとなる。イランは直接対決したくないからこそハマスを使っている。だから、イスラエルが各施設を空爆しても何も出来ないだろう。06年のレバノン攻撃の失敗を回復するつもりだろう。きわどい賭けに出たイスラエルはこれを機にレバノンまで一気に制圧できるとは考えていない。しかし、ヒズポラの出方次第ではその選択肢も考えているはずである。イスラエル外相との会談でサルコジの笑顔が印象的。フランスは停戦提案拒否されたのに嬉しさいっぱい。ガザではロシアも手が出ない。
 イランがそこで何処を頼りにするかだ。多分、ロシアにも助けを求めるだろう。バクー油田のあるアゼルバイジャンはイランのハメネイの故郷だ。アメリカとイギリスはグルジアのパイプラインとNATOの維持が重要事項だが、イランの核を制圧する事の方が優先度が高い。軍事的にはアフガニスタンに兵力を割かねばならず手がでない。アメリカの暴力団化したイスラエルの狙いはあくまでイランの核。これはアメリカにもありがたい話である。ガザを攻めた後はイランの出方次第で、さらにタイミングを待つだろう。市民が何人犠牲になろうとこれはイスラエルの生存のための戦いであり、イスラエルのなりふり構わぬ軍事行動は過去において成功している。そもそもイスラエルの存在そのものがパレスチナにおいて派理不尽なのだから、なりふり構わない事が大事なのだ。ガザで手を引いてもハマスに対する制圧は大成功すればイスラエル国内の大義名分は立つ。イランが下手に出れば核施設も片付くという読みだろう。ロシアとアメリカの関係がグルジアに対するあたりでグチャグチャになってもだんまりだ。ユダヤ人らしいが、これがもとで西アジアがハルマゲドンになるかもしれないのだが。イスラエルにとっては生存のためには何でもやる事が正義である。

2.コーカサス諸国と大国の思惑
 昨年8月北京五輪中グルジアの南オセチア自治州にグルジア軍が侵攻するとロシアがこれを攻撃、選挙する事態となった。その時、アメリカがグルジアに軍事顧問団を多数派遣していた事を知った。また、大統領選挙中でオバマ陣営もバイデン氏を送り、マケインも婦人が訪問している。次期政権にとってもグルジアは重要なアメリカの布石である。その理由はコーカサスの地勢的な状況と宗教、その民族の歴史が複雑に絡まり、一言では理解できない。しかし、風が吹けば桶屋が儲かる式の連鎖が起きるところでもある。コーカサスはバルカン諸国のように他民族、他言語、多文化の複雑な地域であり、紛争の火種が多い。
 ロシアはチェチェンでは手段を選ばない強硬な軍事行動を行った。その報復が北オセチアの小学校占拠テロ事件である。オセチアはこのエリアでは突出した親露である。グルジア内のオセチア人の保護はかつてのソビエト連邦の盟主であるロシアの面子にかかわるところなのである。
 コーカサスはヨーロッパにとり、魅力的な地域である。かつて、ヒットラーはこのコーカサスを押さえ、バクー油田を取りたいがためにモスクワ攻略を目指すドイツ国防軍参謀本部と対立し、モスクワ攻略中に兵力を分散させ、スターリングラードで大敗した。ウクライナはソビエトロシアの圧政との雨氷政策の失敗により多くの犠牲者を出した。しかし、地勢的に、又経済的にもロシアから離れる事は出来ない。グルジアはスターリンの故郷であり、また、ゴルバチョフの右腕となった外相シュワルナーゼを生んだ地でもある。それがソビエト崩壊後歴史的転換—19世紀に戻ったような形になったことになる。
 今や、グルジアもウクライナも独立し、NATOやアメリカに接近している。ウクライナのユシチェンコ大統領の就任当初は、ロシアよりもEU(欧州連合)諸国との関係を強化することを目指していた。同様の立場を取るグルジア・アゼルバイジャン・モルドヴァとともにGUAM(4カ国の頭文字)と呼ばれる連合を結成し、また、同国自身が将来的にはEUへの加盟をさせようとしているとも伝えられる。しかし、この地域はロシアとの経済関係を失うこともできず、西側にとっては安定した関係ではない。ロシアは石油と天然ガスでEUのエネルギーの20%を供給していることを武器にイニシアチブを取る事が出来る。今やlこの利益無ければロシアも成り立たないのだが、恫喝の材料となっている。一方、グルジアはオセチアに対するロシアの影響を恐れ、ロシアに対して敵対的でもある。また、ブリテイッシュペトロリアム(BP)のパイプラインが冷戦後通っている。EUのエネルギー拠点である。その北にはチェチェンがあり、ロシアの頭痛の種でもある。そこにアメリカが楔を打ちつつある。しかし、アメリカにとってはこの地はあまりにも遠く、地理的に孤立している。戦略的価値がなければベトナム戦争時のラオス・カンボジャのような目に遭う事も予想される。
今回のサーカシュビリ大統領の南オセチア進攻は軽卒な印象を拭えないが、この事態を世界に知らしめ、被害者的な印象を与えたことに狙いがあるのだろう。ヨーロッパにとってはその南に位置するアルメニアがイスラム諸国に対する北の防波堤となりうる。アルメニアはかつてトルコから100万人と言われるジェノサイドに遭っている。アルメニアという国は産業的には大したものはないが、昔からコーカサス交易の要として優れた商人を生み、ユダヤ人のように世界中にネットワークがある。アメリカにもアルメニアのロビーが議会に影響を与えている。また、フランスにも30万人が住み、アルメニア教会はキリスト教の一派としてカトリックからも承認されている。1915年のトルコのアルメニア人絶滅計画を認めようとしないことがトルコのEU加入の障害になっている。トルコはEUに加盟したいが、その宗教やヨーロッパとの歴史的関係、また、アラブとの関係からEUの警戒感が強い。とはいえ、昔からロシアに対立してきたことからNATOに加盟し、アフガニスタンには派兵している。
 オバマ政権の政策目標はイラク撤退とアフガニスタンにおける対タリバン戦勝利である。またイラク国境のクルド人問題も抱えている。そこで、重要なのがトルコ、アルメニア、グルジアを親米にすることが対イラン戦に対しては必要であり、トルコをEU側につけてしまってはアメリカのイラン包囲網の弱点となる。アメリカに取ってイラクへのアメリカの覇権を維持するためにも、トルコは重要であり、今日も軍事基地となっている。一方、イランはアゼルバイジャンのロシアの利権を後押しすることによってアメリカに対抗できるだろう。バクー油田を抱える産油国アゼルバイジャンは隣国アルメニアとナゴルノカラバフ紛争を抱えており、また、イランの宗教指導者の故郷でもあるから結びつきやすいのである。アメリカに取ってはイランに勝利する事は逆にこのアゼルバイジャンも味方につけ、その豊富な油田の利権を得る事を夢見ているかもしれない。アメリカはナチスドイツやロシアのような軍事的侵略を露骨にする国とは思わなかったが、米西戦争やインデアンとの抗争など武力による侵略も過去には行っているから、帝国主義的傾向も今なお持っているだろう。
 昔、ローマ帝国がオクタビアヌスを皇帝とした時、絶頂期にはいるが、その時彼が行った事は60の軍団を半分にする軍縮を行った。退役軍人の年金基金に彼の財産も
提供したほど貢献した。そして帝国の行動範囲を定め、軍事行動に限界を儲けた事が
おおきな繁栄につながったといわれる。アメリカは可能な限り一定以上の軍事的行動は抑制し、国家の財務体質の改善や社会的格差是正のための社会投資に資源を集中する事が新しい未来を築く事に気付いてほしい。

 3.アメリカの金融危機と世界
 アメリカの金融資本主義は崩壊し、新たな金融世界秩序が生まれようとしている。アメリカ中心の世界秩序は終わりつつある。膨大なアメリカの金融資本は必ずしもアメリカ合衆国から飛び出し、世界を動き回っているという。今回の世界同時不況はドルの基軸通貨としての力を減退させ続け、ユーロの力は拡大する。しかし、ドルが基軸通貨としての価値を失うまでに無力になるかどうかはアフガニスタンにおける軍事行動が成功するかどうかである。長引く軍事支出は国家体力を減退させる。アメリカのイランやアゼルバイジャンにおける石油利権を求めなくとも、自国の資源と省エネ技術革新で成り立つ構造にオバマ政権が変革できる事が世界平和の基盤となるであろう。
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by katoujun2549 | 2009-09-11 11:41 | 国際政治 | Comments(0)